アルハイゼン
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「つまり、俺と彼女が付き合えばいいという話か?」
これで帰りたいと玄関前にて考えるのは何度目だろうか。そして本日配達必須の荷物だったときの絶望感を味わうのも何度目だろうか。取り敢えず後回しにしようと思い、芽衣はアルハイゼン家を後にしてスメールの配達をほぼ終わらせた。
無我夢中に配達を行っていたからか喉が乾き、彼女はベンチに腰をかけることもなく水を飲み干した。休憩を挟めばずっとあの会話について考えてしまうからだ。
彼女は手元にある残りの荷物を見つめ、深い溜息をついた。どうして今日中なのかと、どうして重要なものなのかと心底誰かを恨んだものだ。
彼女とは、カーヴェにアルハイゼンとの交際を求められる彼女とは、どんな子なのだろうか。自惚れかもしれないが、と思いつつも、芽衣自身カーヴェとアルハイゼンとは結構な仲だと感じている。そこらの普通の配達員とは比べ物にならないほどには関係が深くなっている、と思っている。
しかし、それはあくまでも配達員としてのことだ。一人の女の子としてはどうなのだろうか。
私は一体、アルハイゼンから、どう見えて
そう思った瞬間に、はっと我に返り芽衣は立ち上がろうとした。が、身体が動かないのだ。そんなことを思うなんて、まるでアルハイゼンのことを。そこまで考えてから、彼女は頭を横に振り、やがて視線を足元へ下ろした。
「………やだな」
「配達がか?」
突然視界に映り込んできた黒い靴に驚いて、彼女が顔をあげるとそこには話の中心人物であるアルハイゼンがいた。
「一度家に来たことはわかっている」
「…ごめん」
「謝まる必要はない。別に責めているわけではないからな。荷物は今日中に届けば支障が出ることはない」
「そっか、ありがとう」
少し居心地が悪そうに芽衣はベンチに腰を下ろした。そしてアルハイゼンもその横に腰を下ろす。荷物一個分の距離が彼女にとってとても安心できる要素だった。
「そうだ、言っておかなければならないことがある」
「………うん」
芽衣の頭の中には彼女という存在がずっとグルグルと回っている。結局、アルハイゼンはその彼女候補にどのような印象をもっているのか、最早好きなのかという疑問によって芽衣は今周りが雲がかかったようになって見えないのだ。そのような状態でアルハイゼンが次に紡ぐ言葉を待った。
「カーヴェが俺と芽衣が付き合えばいいと言っていた」
「……………は?」
「その反応は想定通りだ。俺も芽衣と同意見であるからな」
「いや、ちょっと待って、混乱してきた」
「カーヴェが言うには、芽衣と付き合えば多少は人の心を取り戻せるのではという見解らしい。俺はそうは思わないが」
「………」
カーヴェがアルハイゼンと言い合いをしていくうちに、口からでまかせで出た言葉なのだろうと彼女は直ぐ様に理解した。なぜならそのような光景は脳裏に焼き付くほど目撃しているからである。そして大抵アルハイゼンに一蹴されてしまうのがカーヴェであった。
「俺が相手に寄り添うことはない。俺は俺の思う通りに動く。だが恋愛は常に互いに思いやり、寄り添うことが必要だ。そのような生活が俺に合うとは考えられない」
「………まぁ、そういう人間だよね、アルハイゼンは」
芽衣は決してアルハイゼンのこの言葉に対して、己は恋愛対象に入らないなどと落ち込むことはなかった。これがアルハイゼンだと信じて止まないからだ。恋愛のれの文字もなければ、惚れた腫れたの事情も聞いたことがない。
先程まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく感じるほど、彼はアルハイゼンそのままだったのだ。最初から分かりきっていたというのに。どうやら芽衣はかき乱されればされるほど、周りが見えなくなりパニックに陥ってしまうようだ。その点においても常に数々の視点から物事を見つめているアルハイゼンと違うのだ。
彼が彼のまま居続けていることに心底安心した芽衣は荷物を持とうと大きいダンボール箱に手を伸ばした。が、その手はアルハイゼンによって遮られてしまう。
「…どした?」
「話はまだ終わっていない。
芽衣がよければ俺と付き合ってほしい」
「え?」
荷物を持っていたならばきっと落としていただろう。それほどに芽衣は動揺し、アルハイゼンから目線を外せないほどには揺さぶられたのだ。
「……えっと、なんで?」
今の話の流れからして、どのようにして考えたらその答えに辿り着くのか些か疑問だった。きっととんでもない理由があるに違いないと芽衣は考えた。が、思ったよりもしょうもないことかもしれないと相反している意見を頭の中で述べた。
「理由としては」
「興味がわいたとか……そんなの?」
芽衣は最早冷静になってきていた。ここまでくると普段のアルハイゼンと何も変わらない。似ているようで似ていないのだ。
「大まかに言えばそうだ」
「……やっぱり」
「流石、よく理解してくれている」
「伊達に何年も配達してないから」
アルハイゼンの家へと二人は歩き出した。
「それで、どうなんだ」
アルハイゼンからの問いはいつも難しいものばかりである。きっと彼と付き合っても今までと関係性は変わらないだろう。そして断っても変わらないのだろう。アルハイゼンの心など奪えるわけがない、と芽衣は考えた。そもそも心なんてあるのかと酷いことを考えてしまうのはもはや御愛嬌で許してほしい。
けれどアルハイゼンの心を奪えないのであれば、称号だけでも手には入れたいと感じてしまったのだ。
どうやったってアルハイゼンに敵うものなどいないのだから。
芽衣は悔しいからという単純かつ複雑な理由を抱えてこう言ってみることにした。
「……付き合ってあげてもいい、よ?」
「そうか。ではこれからもよろしく頼んだ」
アルハイゼンって変わんない。そう感じた彼女はくすりとバレないように笑みを浮かべた。付き合ってほしいと頼まれたその瞬間は大いに焦ったが、今は心臓も少し速いくらいでいつもよりおかしなところはない。アルハイゼンが恋愛ごときで変わるような人間じゃない、そう考えると良いような悪いような、それでいてどこか安心した気持ちになった。
「付き合ったばかりのカップルの会話じゃないね」
「ではどのような会話をするのか、家で詳しく聞きたい」
「もうカップルの会話じゃない……」
頭を抱えるジェスチャーをしたいが、両手が塞がっているためにそれは叶わなかった。恐らくカーヴェだったら自分の荷物なら尚更、いや自分のものではなくとも持ってくれるのだろう。しかし、今彼女の隣にいるのはアルハイゼンである。彼女はそのようなことを彼に期待していないし、期待することもないだろう。
そしてまた、アルハイゼンの興味の対象が恋愛感情ではなく、芽衣自身だということに彼女は一切気付くことはないだろう。
これで帰りたいと玄関前にて考えるのは何度目だろうか。そして本日配達必須の荷物だったときの絶望感を味わうのも何度目だろうか。取り敢えず後回しにしようと思い、芽衣はアルハイゼン家を後にしてスメールの配達をほぼ終わらせた。
無我夢中に配達を行っていたからか喉が乾き、彼女はベンチに腰をかけることもなく水を飲み干した。休憩を挟めばずっとあの会話について考えてしまうからだ。
彼女は手元にある残りの荷物を見つめ、深い溜息をついた。どうして今日中なのかと、どうして重要なものなのかと心底誰かを恨んだものだ。
彼女とは、カーヴェにアルハイゼンとの交際を求められる彼女とは、どんな子なのだろうか。自惚れかもしれないが、と思いつつも、芽衣自身カーヴェとアルハイゼンとは結構な仲だと感じている。そこらの普通の配達員とは比べ物にならないほどには関係が深くなっている、と思っている。
しかし、それはあくまでも配達員としてのことだ。一人の女の子としてはどうなのだろうか。
私は一体、アルハイゼンから、どう見えて
そう思った瞬間に、はっと我に返り芽衣は立ち上がろうとした。が、身体が動かないのだ。そんなことを思うなんて、まるでアルハイゼンのことを。そこまで考えてから、彼女は頭を横に振り、やがて視線を足元へ下ろした。
「………やだな」
「配達がか?」
突然視界に映り込んできた黒い靴に驚いて、彼女が顔をあげるとそこには話の中心人物であるアルハイゼンがいた。
「一度家に来たことはわかっている」
「…ごめん」
「謝まる必要はない。別に責めているわけではないからな。荷物は今日中に届けば支障が出ることはない」
「そっか、ありがとう」
少し居心地が悪そうに芽衣はベンチに腰を下ろした。そしてアルハイゼンもその横に腰を下ろす。荷物一個分の距離が彼女にとってとても安心できる要素だった。
「そうだ、言っておかなければならないことがある」
「………うん」
芽衣の頭の中には彼女という存在がずっとグルグルと回っている。結局、アルハイゼンはその彼女候補にどのような印象をもっているのか、最早好きなのかという疑問によって芽衣は今周りが雲がかかったようになって見えないのだ。そのような状態でアルハイゼンが次に紡ぐ言葉を待った。
「カーヴェが俺と芽衣が付き合えばいいと言っていた」
「……………は?」
「その反応は想定通りだ。俺も芽衣と同意見であるからな」
「いや、ちょっと待って、混乱してきた」
「カーヴェが言うには、芽衣と付き合えば多少は人の心を取り戻せるのではという見解らしい。俺はそうは思わないが」
「………」
カーヴェがアルハイゼンと言い合いをしていくうちに、口からでまかせで出た言葉なのだろうと彼女は直ぐ様に理解した。なぜならそのような光景は脳裏に焼き付くほど目撃しているからである。そして大抵アルハイゼンに一蹴されてしまうのがカーヴェであった。
「俺が相手に寄り添うことはない。俺は俺の思う通りに動く。だが恋愛は常に互いに思いやり、寄り添うことが必要だ。そのような生活が俺に合うとは考えられない」
「………まぁ、そういう人間だよね、アルハイゼンは」
芽衣は決してアルハイゼンのこの言葉に対して、己は恋愛対象に入らないなどと落ち込むことはなかった。これがアルハイゼンだと信じて止まないからだ。恋愛のれの文字もなければ、惚れた腫れたの事情も聞いたことがない。
先程まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく感じるほど、彼はアルハイゼンそのままだったのだ。最初から分かりきっていたというのに。どうやら芽衣はかき乱されればされるほど、周りが見えなくなりパニックに陥ってしまうようだ。その点においても常に数々の視点から物事を見つめているアルハイゼンと違うのだ。
彼が彼のまま居続けていることに心底安心した芽衣は荷物を持とうと大きいダンボール箱に手を伸ばした。が、その手はアルハイゼンによって遮られてしまう。
「…どした?」
「話はまだ終わっていない。
芽衣がよければ俺と付き合ってほしい」
「え?」
荷物を持っていたならばきっと落としていただろう。それほどに芽衣は動揺し、アルハイゼンから目線を外せないほどには揺さぶられたのだ。
「……えっと、なんで?」
今の話の流れからして、どのようにして考えたらその答えに辿り着くのか些か疑問だった。きっととんでもない理由があるに違いないと芽衣は考えた。が、思ったよりもしょうもないことかもしれないと相反している意見を頭の中で述べた。
「理由としては」
「興味がわいたとか……そんなの?」
芽衣は最早冷静になってきていた。ここまでくると普段のアルハイゼンと何も変わらない。似ているようで似ていないのだ。
「大まかに言えばそうだ」
「……やっぱり」
「流石、よく理解してくれている」
「伊達に何年も配達してないから」
アルハイゼンの家へと二人は歩き出した。
「それで、どうなんだ」
アルハイゼンからの問いはいつも難しいものばかりである。きっと彼と付き合っても今までと関係性は変わらないだろう。そして断っても変わらないのだろう。アルハイゼンの心など奪えるわけがない、と芽衣は考えた。そもそも心なんてあるのかと酷いことを考えてしまうのはもはや御愛嬌で許してほしい。
けれどアルハイゼンの心を奪えないのであれば、称号だけでも手には入れたいと感じてしまったのだ。
どうやったってアルハイゼンに敵うものなどいないのだから。
芽衣は悔しいからという単純かつ複雑な理由を抱えてこう言ってみることにした。
「……付き合ってあげてもいい、よ?」
「そうか。ではこれからもよろしく頼んだ」
アルハイゼンって変わんない。そう感じた彼女はくすりとバレないように笑みを浮かべた。付き合ってほしいと頼まれたその瞬間は大いに焦ったが、今は心臓も少し速いくらいでいつもよりおかしなところはない。アルハイゼンが恋愛ごときで変わるような人間じゃない、そう考えると良いような悪いような、それでいてどこか安心した気持ちになった。
「付き合ったばかりのカップルの会話じゃないね」
「ではどのような会話をするのか、家で詳しく聞きたい」
「もうカップルの会話じゃない……」
頭を抱えるジェスチャーをしたいが、両手が塞がっているためにそれは叶わなかった。恐らくカーヴェだったら自分の荷物なら尚更、いや自分のものではなくとも持ってくれるのだろう。しかし、今彼女の隣にいるのはアルハイゼンである。彼女はそのようなことを彼に期待していないし、期待することもないだろう。
そしてまた、アルハイゼンの興味の対象が恋愛感情ではなく、芽衣自身だということに彼女は一切気付くことはないだろう。
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