「大体いつも君はそうだ、もっと人にな…」
「それは非効率だと何度も言っているし、そもそも俺はその物事に対して興味がない」
「だからってなぁ…!!」


帰りてー。

真っ先にそう思ったのは、両手を塞がれ玄関前に立ち尽くしている芽衣という配達員だ。彼女はアルハイゼンの家周辺を担当としている配達員であり、また雷元素の使い手でもある。

そんな彼女はアルハイゼンは勿論同居人であるカーヴェとも知り合いであり、よくこの二人の言い合いにタイミング悪く出くわすことが多い。

そして今日もまた、彼らの言い合い(カーヴェが一方的に噛み付いているだけともとれるが)に巻き込まれるのだ。そのことを理解した芽衣は扉を叩くか迷った。このまま荷物を玄関に置いていったほうが楽なのではと思い始めたのだ。

ここの家主はアルハイゼン。例え盗まれようとも彼はすぐに犯人を見つけられるだろうし、効率主義の彼になら言い合いに巻き込まれたくはなかったと言えば恐らく責められはしないだろう。そもそも責めるような人間でもないのだが。

そうこうしてる間に、少し重い荷物に腕が震えてきた。配達業をしているとしても、ここの家主の荷物はいつも他と比べて重いのだ。彼らの間に入ることから逃げるようにして荷物を置き、元の道に引き返そうとした時だった。


半壊レベルの音を鳴らして開いた扉からカーヴェが出てきたのだ。芽衣が終わったな、と感じたと同時にカーヴェは彼女を見つけるや否や彼女に詰め寄った。

「芽衣!!!聞いてくれよ!!!!!」

「………」

頭を抱えた芽衣と少し興奮している様子のカーヴェの後ろから、ここの家主アルハイゼンが顔を出した。

「芽衣、来ていたのか」

「あー、そこに荷物置いてるから」

「そうか、感謝する」

教令院で本を読んでいるばかりの彼には、どこで身についたのか疑問に思うほどの筋肉がついており、ひょいと重いものを持ち上げてしまう。

「そうだ、ここにサイン頂戴」

「ああ。」

両手で精一杯だった荷物を片手で抱え、片手でサインを施す。アルハイゼンの字を見て、彼女は思い出したかのようにああ、と溢した。

「そういや昨日カーヴェが掲示板に…」

掲示板と言う言葉に直ぐ様反応したカーヴェは芽衣とアルハイゼンの間に割り込んできた。

「待て芽衣!!!!!!!その話はっ」

「大丈夫だ、その件についてはもう知っている」

「なんだって…!?どこからその情報を…」

「言っとくけど私じゃないからね、酒場ではもう有名だよ」

「なっ……」

それっきりカーヴェは黙り、芽衣とアルハイゼンのみが会話を続けるという形が最近は多い。中立の立場を保つのも面倒だと感じ始めていたのだ。アルハイゼンは敵にはならないが、やはり扱いにくいものがある。その点、カーヴェはわかりやすく素直な男だからか、芽衣は彼で遊ぶようにしてしまう。

「じゃあ、ありがとうございましたー」

「ああ、また頼む」

また頼まれるのか、とこれから先も続くであろう厄介事に身を震わせた。