成人済みヒロイン。
紫陽花が運んできた幸福
空欄の場合は「流畝舞美」になります
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『…はぁ、ほんと、ついてないわ…』
壮大な溜め息をつきながら空を見上げる舞美…
見上げた空には暗雲が立ち込め、大粒の雨を降らせている…
それもその筈…今日の彼女はやたらとついてない事ばかり続いているのだ…
『…急がなきゃいけない時に限って、赤信号に5連チャンで捕まるし…なら、信号が無い道を…と回り道をしたら、その道が工事中で…』
髪を耳に掛けながら、また溜め息をつく…
『何とか切り抜けて、これで漸く、クライアント(取引先)に会えるかと思ったら、今度はそのクライアント様の方の天候が荒れてて、来れなくなっちゃって……そして仕舞には私が車に乗るのを避けて、ちょっとの距離を徒歩で帰ろうとすれば、このゲリラ豪雨!確かに急に降るものだけど!今じゃなくても良いじゃない!』
彼女の怒りの叫び声は虚しく木霊するだけ… 項垂れてふと視線を落とせば、紫陽花が雨の中、華やかに咲いている…
『良いわね…紫陽花は。雨が降ると映えるから…』
「…舞美さんは、紫陽花になりたいの?」
『っうえ…?!』
する筈のない声が真横から聞こえて、彼女は勢い良く声のする方へ振り向く…
「あ、ごめんね。驚かせてしまった…?」
『す、少しだけ…でもいつから其処に…?』
「んっと…舞美さんが叫んでいた辺りかな?だから私も貴女がいる事に気が付いたんだ。」
『ゔ…』
凪砂本人は舞美に会えて嬉しいのか、悪気は無く、穏やかな笑みを浮かべながらそう話すが、当本人からしてみれば、ただただ恥ずかしい限りである…
「…。それで、どうして舞美さんは紫陽花になりたいの…?」
『いえあの、紫陽花になりたい訳ではないですけど、濡れても風邪引きませんし、逆に濡れた方が綺麗に見えるって良いなぁ…と思って……』
気まずそうに言えば、凪砂はこてんと首を傾げて…
「どうして?今の舞美さんも十分に綺麗だと思うけど…。」
『っっ!!』
当たり前の様に、さらりと恥かしい台詞を、ふわりと美しい笑みを浮かべながら言われて…
そんな凪砂を見て、彼の方がよっぽど綺麗なのでは…?と否応にも一気に顔に熱が集まり、思わず視線を逸してしまう舞美…
「舞美さん?…私、また何か変な事を言ってしまったかな…?」
『い、いえ!……ただ、そんな恥ずかしい言葉を、よくさらっと言えるなっと…。』
逸してしまった視線を、おずおずと凪砂の方に合わせながら言う舞美。
「…だって、事実だから…」
『っ!』
そう言いながら、またも優しく微笑む凪砂…
彼女自身も、災難続きの事を忘れ、久々に凪砂に会えて嬉しいのだが、このままでは、更に墓穴を掘り兼ねない…と思ったのか…
『…そそ、それでは私はこの辺で、失礼致します!』
そそくさとその場を去ろうとする。が、伸ばされた凪砂の腕によりそれすらも阻止されて…
「待って。急ぎの用事があるのなら、仕方がないけど…ないのであれば、私に付き合って欲しい。」
『あ…』
寂しげな表情をする凪砂…それに滅法弱い舞美は、当然振り切る事は出来ず…
『…えっ…と…付き合う、って、具体的には、何をすれば……』
「…この近くにレアチーズケーキが美味しいお店があるんだって。だから、良ければ、一緒に行かない…?」
美しく微笑みながら、言う凪砂…ドキリと、やはり舞美の心拍数は上がってしまう……
『…あ…でも雨……』
「雨…?…止んでいるけど…」
見上げれば、いつの間にか、雨は止んでいて…
彼女の怒りも凪砂のお陰で静まって…
『…今日はついていない日だと思ってたけど……』
「…舞美さん‥?……ダメ、かな…?」
不安そうに凪砂が舞美の顔を覗き込もうとするけれど…
『い、いえ!…私で良ければ、ご一緒、したいです…。』
遠慮がちに言えば、凪砂は心底嬉しそうに笑って…
「…良かった。それじゃ行こうか。」
『はい‥!』
凪砂に手を引かれ、軽い足取りで、その場を後にした…
その場には、二人を祝福するかのように、紫陽花が雨を受けてキラキラしていて、空には虹が出ていた…
まるで、紫陽花が福を連れてきたかのように……
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