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イチジ

私は王女。

とある国の王女。

色んな人から期待される。


だけど私は人間。

全ての期待に完璧に応えられるわけじゃない。


辛い時だってある。


そんな時でも“王女だから”取り繕って、道化─ピエロ─みたいに笑顔の仮面を貼り付ける。

自分の心を欺き続ける。


誰にも褒められないけど。

誰のためにやってるのか分からないけど。


今まではそれが出来てた。

だけど──


疲れた。

動けない。

私はもう、道化─ピエロ─になることすら出来ない。


終わりのないこの道を、歩む意味を失くした。

──否、元々そんなものなかったのかもしれない。


瞳から涙が溢れる。


人から必要とされなくなる苦痛。絶望。狂怖。

それらが身体を震わせた。


もし私が道化─ピエロ─じゃなくなったら。

誰が必要としてくれる?

誰が拾ってくれる?


せめてこの満月のように、強く美しく在りたかった。


人の気配を感じる。

足音がする。


誰かに見られないように、気合いで涙を引っ込める。



「何をしている」



振り返ると、見慣れた顔。


どうやら足音の正体は、数年前から恋仲のイチジだったらしい。

確かイチジはどっかの国の跡継ぎだとか。



「ちょっとね、ほら」



そう言って偶然にも手に持っていた、酒の入ったグラスをちらつかせる。



「月見酒もいいもんだよ」

「……そうか」



相変わらず私達の会話は少ない。


不仲な訳じゃない、寧ろ仲がいいからこそ。話さなくても伝わる部分があるからだ。



「全部溜め込むな。……お前の悩みは俺の悩みだ。お前は一人じゃない」



彼はそう言って私の頭を撫でる。


きっと彼には私が悩んでることも、苦しんでることも、全部お見通しなんだ。

唯、ちょっと不器用なだけなんだ。



「……ありがと」



私は、はにかみながら微笑む。


例え私が道化─ピエロ─じゃなくなったとしても、この人は拾ってくれる。必要としてくれる。

彼は私を沢山褒めてくれる。だから彼のために頑張ればいい。


終わることのない道、それを歩む意味を今見つけた。









またの御来店を心よりお待ちしております。
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