宇宙人は地球人と交信を図って仲良くなりたいだけなんです
鋼田一は頭を捻る。
正しい恋愛とはなんだろう
正しい恋愛の順序とはなんだろうと。
自分がしている恋愛ごっこみたいなものは、大変突発的なもので、本当にこれでいいんだろうか、間違ってはいないのかと何度も問いかけていた。
だがあの暑苦しい季節に一騒ぎ起こした殺人鬼がこの街から去って、自分に関する時間の全てを某宇宙人に注いでいると、否が応でも相手のことがわかってくる。
思うにあの相手というものは自由に奔放なのであって決して性に奔放なわけでもないし、付き合い方はちょっと独特だが自分のことを1番に考えてくれている。
もしここで孤独に終生を迎える予定だった自分に、自分と話して自分の幸せを考えてくれるようなパートナーができたら。それって実は大変幸せなことではないのだろうか?問題は、後はそれを鋼田一自身が覚悟を決めて受け止められないといけないことにあって、自分にはまだその勇気がないと思っているところであった。
鋼田一豊大は鉄塔の上で風に吹かれて考える。
秋を運ぶ風は季節の変わり目を意識させるように、夏の温度と打って変わって少し寒い。
✴︎
「それでよォ、結局……やっぱ、したんだろ?どうだった?」
「した……?ナニをですか?」
ぶどうヶ丘高校の昼休みに、目つきの悪い不良2人と視線のつかめない学生1人が体育倉庫で昼食時を迎えていた。
不良のうち、より目つきの悪い方……億泰はその返答に周囲の目を気にしてチラチラ見た後(無論、体育倉庫なので周囲の目も何も無いが)相手ミキタカの耳元に近付き小声で言う。
「だから……な、ナニだよ」
「ナニ……そうですね、ご飯とアイスを食べました。」
「そうじゃなくてよォ…だから……」
少し間があって「その…ホテル、ラブホとか、行ったのかって聞いてんの!」と億泰は掠れた声を荒げる。が、やはり不思議そうな顔で小首を傾げてミキタカは答えた。
「らぶほ……とは?」
「シッ!そんな大きい声で言うなって!」
その様子を見て、億泰はラブホのことをバケモンかなんかとでも思ってんのかなァなんて考えつつ、不良のうち顔がいい方…仗助が2人の会話に口を挟む。
「だから言っただろ億泰、絶対知らねェから聞けば聞くほどこっちが恥かくだけだってよォ〜」
「んでもよ仗助。なんかこう、相手はさておき人の恋愛事情〜ッつーのはいつだって気になるじゃあねェかよ」
億泰は口を尖らせ仗助の方に振り返る。仗助はそんな億泰に『サンジェルマン』で買ってきたサンドイッチのうちの一つを投げつけながら言った。
「おめーの場合はわざわざ自分で聞きに行って傷ついて帰ってくるだけじゃあねーかよ」
仗助は持つ袋からもう一つサンドイッチを取り出し風貌の奇妙な学生の方…ミキタカにも「ほらよ」と手渡した。学生は「ありがとうございます」とお礼を言ったのに続けて言った。
「ところでらぶほってなんなんですか?」
「あーほら!余計なこと言うからよ!億泰!」
「おうおう!ちょっと失礼!
奥さん、エロ本とか読んだことある?」
呼ばれてサンドイッチ片手に億泰が、またも小声でミキタカに話しかける。しかし、「エロホン……初めて聞きました、どう言うものですか?」と言うミキタカに「あ、こりゃダメだ。てんでダメ」と言って億泰は仗助に向かってひらひら手を振る。
その一方でミキタカはカバンの中から何やらよくわからない板状の機械を取り出して操作を始めた。それに気付いた不良2人はミキタカがスイスイそれを操作している横から画面を見ようとじわじわ割り込んでくる。
「エロホン……ですか……あ、これですね。」
「なんだそのヘンテコな機械は!?」
「エロ本」を機械の中に見つけたらしいミキタカは、横で声を上げる仗助らを無視して、「エロ本」における条項を声に出して読み始める。
「『主に人間の生殖行為についてをとくに人の性的興奮のための娯楽として存在している雑誌、書もぐぐ」
「わーーッ!!おいやめろやめろ読み上げるな!億泰そのよくわかんねーの取り上げろ!」
「おうよ!」
仗助は口を塞ごうと自分が持っていたサンドイッチをミキタカの口に押し込む。その間にサンドイッチを置いてすっ飛んできた億泰が機械的な薄い板をミキタカの手から奪った。
億泰はその後「ほへェ〜」とかなんとか言いながらその奪った機械の板をしばらくまじまじと眺めていた。
一方口にサンドイッチを押し込まれたミキタカだったがそれをしっかり咀嚼してごくんと飲み込んだ後、ひと段落置いて「なるほど、ニンゲンの生殖行為のことですね。どうしてワタシと鋼田一さんがデート中にそんなことをすると思われたのですか?」と口を開いた。
「ほんと……お前よ……」
「ラブホについて読み上げられた時はもう俺学校通えないかと思ったよ……」
「ワタシと鋼田一さんが仮に生しょ」
「『ナニ』って言え!!!」
「『ナニ』をしたところで、子供はできません。ニンゲンは同じ性別同士だと繁殖できないんですよね?やる意味はあるのですか?」
「あ、それもそうか……」
ミキタカの言葉に2人が考えている間に、ミキタカは盗られていた金属製の板をさら〜っと取り返して鞄に入れる。そしてお昼のサンジェルマンのサンドイッチの包みを開く。
しばらく考え込んだ2人だったが、やがて仗助が口を開いた。
「あ、なァ億泰、俺いいこと思いついたから言ってもイイ?」
「おういいぜェ」
悪い顔をしている仗助を見て、「あーね、了解だぜ」と億泰もまた悪い顔をして応答する。そして仗助はパチンッと指を鳴らし、ミキタカの方を向いて声を上げた。
「なぁミキタカ、俺らまだ成人してなくてよォ、実のところあんまり詳しいことは知らねェわけだよ。でさァ、やっぱり大人のことは大人に聞くのが1番っつーことで……
今日の放課後露伴の家行こうぜッ!」
「なるほど〜。そうですね、行きましょう。」
つまり旅は道連れということである。
「ところで俺のサンドイッチは?」
「仗助さんのサンドイッチなら先ほどワタシの口に押し込んでましたよ、おいしかったです」
✴︎
結局その日の放課後、広瀬康一のいないメンツに岸辺露伴が愛想よく振る舞うわけもなく、「なんでボクがそんな気色悪いこと教えなくっちゃあならないんだ」とか一言言った後露伴邸の扉は固く閉ざされた。
しかしながら漫画家岸辺露伴、アホとバカはさておき宇宙人だとか自称するあのヘンテコな人間の中身には大変興味が湧いてしまい、室内でしばらく好奇心と理性が勝負を続けていたのだが、最終的には「いや、さっとドアを開けてその間に全員ヘブンズ・ドアーで動きを止めて読むだけ読んじまおうッ!」と心に決め露伴邸の扉はその内部からほんの少しの隙間だけが開けたのである。
結局その隙間が命取りとなって、岸辺露伴は宇宙人とかいう未知の存在について少々の知識と代償に全く興味のない男性同士が肉体を通じて愛する理由のための情報を差し出すこととなるのだがそれはまた別の話だ。
この小説は残念ながら苦しむ岸辺露伴を眺めて楽しむものではないのだ。
「こんにちは、鋼田一さん」
「あ!こ、こんにちはミキタカさん」
露伴邸で自分の求める『知識』を得たミキタカは、ニコニコしながらいつものように鉄塔まで歩いてやってきた。
「上がってもいいですか」
「はい、大丈夫ですよ」
お馴染みの来訪者に鋼田一も顔パスでミキタカを今自分がいる鉄塔の上の方まで呼ぶ。
「お邪魔します。何かお手伝いできることはありますか?」
「あっ、いいですか?えーと……
じゃあ上がるついでに下の方になってる採れそうな野菜を採ってきてもらってもいいですかね」
「はい、わかりました
これは採れそうですか?」
「あ、はい!そこらへんのはもう全部取れると思います!夏も終わったので……」
「わかりました、持っていきますね」
もうここでの生活に付き合うことへ慣れきってきたミキタカは、手元にいっぱいの野菜を持って上階まで上がってくる。野菜を取る時期も、取れる野菜の見方や加減も、全てはミキタカがここに来て鋼田一から学んだことそのものであった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、助かりました」
今日も上がってきたミキタカと話をしながら野菜でご飯を、他にも何か保存食でも作ろうかと考えていた鋼田一だったが、平らで座りやすいいつもの鉄骨に腰をかけたミキタカの様子がなにやらソワソワしているのに気がついた。
珍しく何か言いたげかミキタカに、そういえばこの人俺より年下なんだよなァ(実際は年下ではない)と慈しむ気持ちが芽生え、鋼田一は「どうかしましたか」と声をかける。
それに気がつくと、ミキタカはちょいちょいと手招きをしてきた。
「鋼田一さん、耳を貸していただけませんか?」
「いいですよ」
言われた通りに鋼田一は自身の耳をミキタカの口元に近づけてやる。その耳に対してミキタカは声を出して意思を伝えた。
「『ナニ』しませんか」
「……え?『ナニ』……?ってなんですかね?」
「性行為のことです」
一瞬なんと言ったかよく理解できなかった。
言われたことが噛み砕けず喉元に突っ掛かったまんまの鋼田一はひとまず「へ〜ミキタカさんもそんな風に言葉を濁して言ったりするんですね、アハハ……」と良くわからない返しをした後顎に手を当ててまた数十秒考え込む。
気のせいだろうか?いや確かに言ったと思う。いやでも、同音異義語の可能性も……。言われた時こそ逆に冷静だった気分になにやら衝動の波が押し寄せる。何かもっと情報を得ようと鋼田一が出した次の声はなんとも情けないものだった
「……え、え、ええ??え……え??え??
だ、誰と?誰が????」
「ワタシと鋼田一さんが」
「だ、誰からそんなこと聞いたんですか!?」
「露伴センセーと、仗助さん、億泰さんから」
「東方仗助……!」
余計なこと教えやがって……!と東方仗助のいない間にこの鉄塔ではよく彼へのヘイトが溜まっていく。そんなことは気にせずミキタカはいつものように自分がどれほど突飛なことを言っているかなんて気付かないままで「ダメですか?」と眉を八の字にして小首を傾げる。
「だ、ダメ!?だ、だ、だ……」
言葉に詰まる。
と言うか露伴センセーて誰だ。センセーってからには大人かな?ダメじゃあないかこんなこと簡単に教えちゃあ……!そして自分が知らない間に自分の知らない人達に俺らの関係が漏れていく…!!
いや、でも、でも、今回ばかりはダメだ…!年上としてここはやっぱりちゃんとしないといけない…!
「だ!?だ、さ、さすがにダメです!!」
「やっぱりダメですか…?どうしてですか?」
「もうちょっとこう、過程を……!」
「でも私たちは、キスもハグもしました。」
「……確かに、したなぁ……」
過程過程というわりに短期ではあるがやるべきことはやっている気がする。恋愛にやるべきことっていうのも変な話の気がするが。
「他に何が必要なんですか?教えて欲しいです」
「何が、必要……?」
時間がぱたと止まる。頭を悩ませてうんうん唸ったあと鋼田一は言葉を捻り出す
「ほ、法律……ですかね」
「法律?」
自分でもどんどん方向性がズレている気がするしその自覚は大いにあるが、とりあえず話を進めてみれば場が収まるのではないかと思い口に出してみる。
「その、未成年には手出し…ええと、せ……性的な関係、を結んじゃいけないんです……て言う決まりがあって……いや、詳しくは知らないんですけど。」
「でもワタシは216歳です。鋼田一さんも大人のはずです。」
「えーっとミキタカさんのそれは……あくまで設定の話であって……いや、設定じゃないにしても!見た目が高校生じゃないですか!
だから側から見たときに俺が犯罪者になっちゃって、最悪、俺が、捕まるかも……」
「捕まる……それは、ダメですね……」
2人して顎に手を当てう〜んと考え込む。
大変しょうもないことのはずであるが2人して一生懸命考え、またこれがおかしなことだと思うような気持ちももうこの空間には無い。最近の鋼田一はどうも考え方が『宇宙人寄り』になってきている。自覚もない。
やがてミキタカが顔を上げて鋼田一に確認をとる。
「大人の人がミセーネンに手を出しては、いけないんですね?」
「そ、そうです」
「ではミセーネンが大人の人に手を出せばどうなるのですか?」
「えッ!?!?ど、どうなんだろう」
鋼田一がまた頭を抱える姿に追い討ちをかけるように、「ワタシ達には年齢の概念が薄いですから」とミキタカの宇宙人節が大変真面目に火を吹く。もはやなにが常識だったか双方わからなくなってくる。
「この国は決まりがたくさんあって難しいですね。少し調べてみてもいいでしょうか」
「え、は、はい……調べられるんですか?」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
そう言ってミキタカは自分の鞄からよくわからない機械の板みたいなものを出して操作する…昼間に出した板と同じ物質である。鋼田一はぽかんと口を開けて、また知らないものを出してきたなと思いはするものの、いちいち突っ込んでいてはキリがないためもう慣れたものとスルーして調べ終わるのを待つ。
「調べました。『真摯なレンアイ感情に基づく』モノなら問題はないようです。とくにコンイン関係、フーフ関係なら大丈夫だとありました。」
「夫婦!?婚姻!?!?」
想像できない関係性にヒエ〜と小さな悲鳴を上げる鋼田一にはお構いなし、「ところで真摯なレンアイ感情とはなんですか?」との追い討ちがかかる。
「え、それは……えっと、相手のことをちゃんと考えて、恋する、みたいな?」
「ワタシは真摯なレンアイ感情に基づいていないですか?」
途端に目の前の宇宙人が眉毛を八の字にしてこちらをじっと見つめる。心なしか小さくなっている気がするこの生き物に、自分はとても甘い。
「………………み、ミキタカさんの、気持ちが真面目なのは、俺が1番わかってます……」
2人して葬式のようなもったりとした空気にドギマギとする。鋼田一は思う。同級生には中学や高校で卒業してるやつなんか山ほど見かけた。自分はそんな暇がなかったし、とりわけモテたこともないので気にしたこともなかったけれど、そいつらが罰されてないなら、理論上は不可能なわけではないのでは…?
「絶対に、誰にも見つからないなら、その、だ、大丈夫なんじゃないでしょうか……?
「本当ですか!
ありがとうございます、鋼田一さん!」
あぁチョロい。互いにチョロくて甘い。飛んできた高校生にしては軽い体をアンバランスな鉄骨の上で抱きとめて、なんか自分は大いにこの宇宙人に影響を受けまくっているなと鋼田一はため息をつく。
というかあれ、断る予定だったのでは……?
今自分の胸元にいる生き物のおひさまみたいな匂いに呑まれると大体のことを許しそうになるから困る。このままだと本当になんでも許しそうなので急いで話題を逸らそうと頭を振る。
「ところでその…お、俺たちって男同士ですよね?男同士でそんなことできるものなんですか」
「露伴センセーは無理ではないと言っていました。やり方が何かあるのではないでしょうか。まぁワタシは男女の性別には括られていないのでどちらにもなれるのですが」
「そもそも、なんでこんな話に……?」
ミキタカは鋼田一の胸元から起き上がって答える。
「ワタシはそもそも、この星における性行為とは繁殖のためだと考えていました。我が星ではそんなことをしなくても繁殖できるので、この星特有の繁殖の仕方だと」
「そ、そう言われるとなんというか愛のかけらもないって感じですけどね」
「そうです。そう考えていたのですが、人類の性行為というものはどうやら一種の最大の愛情表現とも言うようです。なので興味が湧きました」
個人的にはミキタカさんの星でどうやって生き物が増えるのかも気になるのだけれど、今度聞いてみようかなともう疑いもなく彼の話を理解している。恋は盲目であった。
「どうやらその行為をすると快楽物質が出て幸せになれるらしいです。『愛』や『幸せ』を鋼田一さんにあげられるのであれば、やってみたいと思いました」
鋼田一は少し頬が緩む。
いつだって気持ちの方が優先的で、興味本位、好奇心に従順、しかし自分のために動こうとしている奇妙な生物。それを地球の小さい島国の法律なんかで縛れると思うことの方がおかしい気さえしてくる。なんだか顔が熱い。
「……俺は何をすればいいですか?」
「ええと……繁殖についてはワタシの星と違いすぎて何からしたらいいのかわからないんです。露伴センセーはそこまで教えてくれませんでした」
ミキタカは頬をポリポリと掻く動作をする。すっかり地球に馴染んだように見えるその仕草と真っ直ぐなミキタカの気持ちに鋼田一は自然と口角があがる。
「気持ちだけで来たんですね」
「はい。ダメでしたか?」
「少し慣れました。えっと……」
小首を傾げるミキタカを制して鋼田一はどうすればミキタカに答えてあげられるかを考えこむ。そこに一つの考えがフと浮かぶ。それは「自分も男同士でやる方法を調べなくっちゃあならないのではないか?」という疑問だった。問題はそれをどのように口に出すか、だ。
あ、もしかしてめちゃくちゃ恥ずかしいことを言わなければならないのでは?いや……もう慣れた、慣れたはずだろう鋼田一豊大。もう何も気にすることはない。多分…
ぎこちない動きで顔をミキタカの方に向ける。そして鋼田一は途切れ途切れの言語でどうにかミキタカに自分の意思を伝えようと声に出す。
「お、俺も──」
ミキタカがなんですか、と返すと今度は気持ちが決まったようだ。先ほどより大きな声が出た。
「お、俺も!勉強したいので!なんかそ……そういう本……とかあったら、買ってきてくれませんか!……ね?」
ね、と言いながら鋼田一は首を傾げる。大きな声の分はっきりと声が裏返ったことがわかって、顔を覆いたくなってきた。
というかそもそもそんな漠然とした本あるのか。今の鋼田一には鉄塔より外の事情は全く分からないというのに。それでももたもたとしながらまだなんとか話を続けようとまた声を上げる
「そ、それで勉強して、準備とか色々して、その……そのときに……なら……」
だんだんと語尾が萎む。暫く2人とも何も言わない。というかその手のことに関して勉強だの準備だの大きな声で言って自分は何を……と居た堪れなくなった鋼田一は、そっと両手を自身の顔に覆い被せた。
今、間違いなく自分の顔は赤いと。しんとした空気自体が2人を包み込んだ。一体どうしたらこの氷みたいな空気に割れ目を入れられるのか……
鋼田一が考え込んでいる間にミキタカが鋼田一の顔を覗き込み大きな声を出した。
「性別が男同士の場合の性行為のやり方の本と言うことでよいですか?」
直接的な表現に聞いていられなくなり「やめて!!そうです!だからそんなストレートに言わないでください!お願いします!!」と悲鳴をあげる。いつものことだが応答はその反応も特に気にした様子もなく「わかりました!本屋さんで買ってきますね」と単調なものだった。
果たして本屋さんにあるのか…?そう考えた思考の隙間にミキタカの声が挟まる。
「ワタシ、とっても嬉しいです。」
「え。何がですか?」
「ワタシは鋼田一さんのことが好きなので鋼田一さんに好意を示すのは当然ですが、鋼田一さんもワタシのために勉強してくれるということですよね。」
「そ、そうです。」
「気持ちの向きがお互いに向いている気がして嬉しいです。小さなかわいいものを心の中で飼っているキモチです」
目の前でニコニコしているミキタカを見る。自分が学校で習った、例えば恋とは、確か同じ人に恋をした主人公とその友達のうちどっちかが出し抜いてどっちかが死んでしまうとかいった、仄暗い話だった気がする。
それに比べれば随分幼くて無垢な赤子のように見えるこれもあの時習ったものと同じように恋なのだろうかと、鋼田一は思う。
「ミキタカさんが大事に飼ってるハツカネズミみたいにですか」
「なるほど、そうですね。好意はハツカネズミに似ているのかもしれません」
ミキタカのカバンの中にいる意外と毛質がツヤツヤしているハツカネズミのことを思い出す。あれが好意と同じだというその感覚が愛しい。
「わたしも『ナニ』の勉強たくさんしてきます。鋼田一さんのためだと思うとなんだか全てが楽しい気がします」
「また恥ずかしいことを……。いや、でも、最近はちょっとわかる気がします」
「え、そうなのですか?」
ミキタカが目をくりりと輝かせて見開く。
「いや、別にはっきりわかっているわけじゃあないですけど……ミキタカさんのそういうところを自分が受け止められているのが嬉しい、というか。」
鋼田一がこのように応答した後、またしばしの沈黙が流れる。今日は間が多い。別にミキタカには意味が伝わっていないのではなく、その言葉をゆっくり噛み締めているだけなのであるが、これも気まずい沈黙と見た鋼田一が口元を抑えて言う。
「待ってください、これ俺もかなり恥ずかしいこと言いました?」
「ワタシは嬉しいですが、鋼田一さんに言わせればそうかもしれません。」
「あぁ……なんか、似ちゃったのかな……そういうとこ……」
「どういうとこですか?」
「一個一個説明してたら俺のメンタルと身がもたないですよ!秘密です」
それこそ感覚が宇宙人に似てしまったのか地球の言葉ではうまく表現できそうに無い。
「いつか教えてください、気になります」
ミキタカがふわりと微笑む。
「気が向いたら……ですかね」
そう鋼田一が返せば、
「ワタシの楽しみが増えてしまいました」
との返事だった。
そういうところも好きだと思った。
やっぱり自分は今、「正しい」恋愛ごっこをしているんじゃあないか、とも。
自分が少しミキタカを理解でき始めたことから今鋼田一は少し冷静な判断ができなくなっていた。だからこの数日後、おそらく彼自身の人生で1番大きな『恥』が彼を襲うことも、『恥』に少し慣れたかと思い込んでいる今のうちは気がつきようがなかったわけであって。
