宇宙人は地球人と交信を図って仲良くなりたいだけなんです
「仗助さんと億泰さんはコイビトではないんですか?」
その問いかけに、お昼のために買ってきたサンジェルマンのサンドイッチを吐き出しそうになったのをなんとか堪えた億泰が答える。
「バーカ、
俺らが恋人なわけぁねぇだろォ!なぁ仗助ぇ!」
そう言って横にいる東方仗助の肩をバシバシ叩くが、仗助は「そ、そうだな億泰…」となんだか同意し難そうな様子である。
現在、支倉未起隆は杜王町の高校『ぶどうヶ丘高校』1年の教室で目の前の青年2人と昼食中だった。1人は大層ご立派なポンパドールとリーゼントでビシッと決めた髪型が目立つ、顔立ちが整ったハーフの青年東方仗助。もう1人は三白眼と刈り上げとパンチパーマに改造学ラン、いかにも喧嘩ばかりしてそうなヤンキーといった見た目の青年虹村億泰。
2人はミキタカが(設定かどうかはわからないが)地球に来た時初めて会った人間である。
「俺らはそんなんじゃあなくてよォ、
‘‘真のダチ”なわけよ」
口いっぱいにサンドイッチを頬張りつつ億泰は言う。
「シンノダチ…
シンノダチとはなんなんですか?」
「そりゃあもう、親友っつーやつよ」
なぁ!と、そう言って仗助の肩をまたバシッと強めに叩く。しかしながら東方仗助、これにまた少々気まずそうである。
説明すれば、この東方仗助という青年は目の前の不良億泰に絶賛片思い中であって、親友と言い切ることにもやもやしているのだが、この話は直接本小説の本編に関わりはないのでまた別の話としよう。
「シンノダチとコイビトとは
どっちが仲がいいんですか?」
「う、う〜ん?そりゃ、俺は恋人いねぇからわかんねぇけどよぉ…仗助どう思う」
「え、俺?俺は…う〜ん、
康一とかならわかるんじゃあねぇの?」
そして2人は恋人がいない。億泰は年がら年中恋人を欲しがっており、男女の仲睦まじいカップルに日々涙を呑んでいるが、仗助にとってはその話題はあまり関係のない話であった。
というわけで仗助は絶賛ラブラブカップルであるもう1人の親友に話を逸らす。
「康一さんですか」
「あ、でもアイツ昼はいっつも由花子お手製の弁当一緒に食ってるからよぉ、あんまり邪魔しない方が…」
と、止めたのも束の間、そんなのお構いなしとミキタカは康一のいる屋上に向かう姿勢をとってしまった。
「ではいってきます。ありがとうございました、仗助さん、億泰さん」
「お、おう」
1人の宇宙人が去った後、残された青年2人はぽかんとしながら、ラブでデラックスな女がミキタカを攻撃しないことを祈りつつお昼を食べる姿勢に戻る。
「まぁ〜世間知らずっつーのは怖いなァ」
「アイツの場合は世間知らずっつーか怖いもの知らずっつーか…」
宇宙人っつーか。ほんとなのかね。仗助はぽつりと呟いて自分も二つ目のサンドイッチに手を伸ばす。
「仗助はよぉ、恋人と親友どっち上だと思う?」
いかにも迷う、というツラをした億泰にそんな問いをくらう。正直、めちゃくちゃ答えづらい。親友を恋人にしたいがベストアンサーだろうが…ここは空気を読める男、東方仗助、ここでの答えは分かっている。
「お…俺は、とりあえずお前といる方が今は楽しいかな」
「仗助ェ〜!!康一たちなんかに負けねぇくらい仲良くやってこうぜおい!」
億泰がその言葉を素直に受け取り感涙に咽びつつ机に伏せってるのを見て、仗助は
「あー、お、おう………!」
とまた中途半端な返事をする。
言えない、まだ言えない。
こいつほんとに康一たちなんかに負けねえくらい仲良くなりたいっつったらどんな顔するだろうな、とこの青年のため息ばかりの日常はもうしばし続くのである。一応大事なことなので2度いうが、本編には関係ない。
✴︎
「こんにちは康一さん」
「あ、ミキタカくん」
打って変わって場面は屋上。そこでは艶やかな黒髪の乙女と小柄で幼い顔立ちの青年(少年とも言えそうだ)が仲睦まじくご飯を食べているところであった
「聞きたいことがあるのですが、ちょっとよろしいでしょうか」
ミキタカは言う。
「あ、ぼくはいいんだけど…えっと、由花子さん、いい…?」
そう言って小柄な青年、広瀬康一はチラリと黒髪の美人に目を向ける。
「…私は康一くんがいいなら…」
本来なら耐え難いが、というむすっとした目つきをしつつも女学生山岸由花子は答える。その返答にホッとしたように「ありがとう由花子さん!」と康一が返事をする。
この2人、所謂「デキて」いるのだが、由花子には少々ヒステリックでバイオレンスな面があり、被害者は大体彼氏である康一の周囲なので、この彼氏も彼女との関係を保ちつつ周囲とも穏便にやっていくために毎日一苦労なのであった。
「それで聞きたいことって?」
康一はミキタカの方に向き直る。
「康一さんは由花子さんと仗助さんたちどちらが大切ですか?」
え、この彼女の前で!?という質問に康一は目をかっぴらき、「え、えぇ!?由花子さんと仗助くんたち…?」と声を上げる。
普通の人間なら由花子を避けて絶対にそんなことしないが、なにせ自称宇宙人、地球の言い訳など通用しないのである。
被害を被った康一は、ミキタカ本人そのつもりはないのだが、この場で彼氏力を試されることとなってしまった。しかし優しさと強さを合わせ持つ男”広瀬康一”、瞬時に正答を叩き出せるくらいにはもう人格はできている
「えっと、そりゃあ仗助くんたちはもちろん大切な友達だけど、由花子さんと過ごす時間もとっても大事だし幸せだよ」
そこにミキタカは追い討ちをかける。
「上と下がないということですか?」
それでも康一は優しいので、
「うーんと、仗助くんたちはすごく心強い友達だし困ったことがあったら助けてくれると思うけど、由花子さんはぼくが守ったり助けたりしてあげたいかな…」
と丁寧にかつ高ポイントな返答をする。
これを狙ってしているわけではないのが、由花子も惚れ込むこの青年広瀬康一の人柄の良さなのである。
「なるほど〜」
「それが聞きたいこと?」
話は終わりかなという顔の康一だったが、
「いえ、もう一ついいでしょうか」
との返答に瞬時に由花子に頭を下げる姿勢を取る。
「由花子さん、もう少し時間ください…」
「ええ、大丈夫よ康一くん」
康一の答えが効いたのか、先ほどよりほんの少し穏やかに由花子は答えた。しかしミキタカはまぁ許可が出たならいいか、という調子でまた爆弾をぶつける。
「由花子さんと康一さんはどうやってコイビトになったのですか?」
「え、えぇぇ!?な、なんでそんなことを…?」
いよいよ心の広い康一も本気で怪訝な顔をし始めたが、ミキタカは続けた。
「私も今、康一さんにとって由花子さんの存在のような人がいるんです。それでその人とコイビトになりたいのですが、どうやったらなれるのかわからなくて」
あぁなるほど、理由もなく聞いてきたわけではないのか…と少し困ったような表情をしつつも康一は答える。
「え、えっと…ぼくは、初めに由花子さんの方から、告白されて……」
「コクハク?コクハクとはなんですか?」
ああ言えばこう言う、謂わばソクラテスの問答法のように次々質問が出てくるミキタカ。康一もこれにはさすがにそれくらいは知ってるんじゃあないの、からかっているんじゃないかなとの考えが過ぎる。それでも照れつつ答えてくれるのは、本当に康一の人格のできたところだろう。
「す、好きって伝えること…?」
「つまり好きといえばコイビトになれるのですか?ですがワタシも相手も好きだと言い合ったのに、コイビトにはなれませんでした」
ど、どうすればいいんだ!?返しても返してもくる質問にいよいよ馴れ初めを話すのは恥ずかしいぞ!?という顔をする康一だったが、ここまで来ると見兼ねたバイオレンス彼女が黙っているはずもなく、
「うだうだうるさいわね!いつまで私と康一くんの時間をとる気!?付き合ってくださいっていって相手がはいって返したら恋人になれる!!それだけのことじゃない!」
と大声を上げる。背後には宇宙的脅威のような形状の髪の毛がうねる。しかしこれも宇宙人には通じないようで、
「なるほど!そう言えばいいのですね、ありがとうございます」
とただ理解の促しを与えただけだったようだ。
ただ康一には少し引っかかるところがあったようで、彼女にストップをかける
「ちょっと待って由花子さん!お互い好きっていったのに恋人じゃないの?それって変じゃないかな、他に何かしたの?」
「ワタシはその人と友達になりたかったので、あなたが好きですと言ったんです。すると相手もワタシと一緒だと幸せだと言ってくれたので」
「うん、それで?」
「キスしました」
ミキタカはキスして逃げられたことを思い出してシュンと背中を丸めたが、康一はそれどころではない。
「ええええ!?!?そ、そのタイミングで!?!?!?」
友達同士の好きはその好きじゃないんだぞ!?と言いたい康一だったが、この微妙なニュアンスはおそらくどう説明しても宇宙人には伝わらない。
「そしたら鋼田一さん、隠れてしまって今日は帰ってくださいと…」
「当たり前だよ!!ビックリしたんだよ多分!こう、き、キスまで行くにはもうちょっと段階踏まないと…!」
「ダンカイ…?」
「えーっと、ほら、ぼくらみたいに一緒にご飯食べたり、デートとかしたりして仲良くなって初めてその…なんというか、キスする覚悟ができるんじゃあないか!」
実のところこのキスは相手側に非があるのだがミキタカには語弊を解く考えもなかったし、康一は康一でこの常識知らずにどううまく言葉で説明するか必死だった。
「デート…」
しばらく口元に手を当てて考え込んでいる様子のミキタカだったが、やがて立ち上がって言った。
「ありがとうございます、とても参考になりました。お2人はとてもステキなコイビト同士に見えます、これからも色々なこと教えてください、
それでは!」
そして嵐のように去っていった宇宙人に呆気を取られつつ、康一は理性で由花子のことを気にかけその目で彼女の方を見遣る。
「……由花子さん、怒った…?」
しかし由花子は案外最後の宇宙人の言葉に気を取られたようで、
「…ステキな恋人同士に、見える、かしら…」
とほんのり頬を染めていた。
康一はほっと胸を撫で下ろした。
✴︎
昼休みももうすぐ終わるという頃、ミキタカは仗助たちの教室に帰還した。
「ただいま帰りました、仗助さん、億泰さん」
「おう、おかえり。なんか学べたか?」と声をかけてやる仗助に、ミキタカは「お2人はデートとは何かわかりますか?」とまた人の恥を曝け出すタイプの質問を口にした。
「で、デート!?」
声を揃えてそう言ったあと、うーーーんと唸りつつ仗助の方が答えを捻り出す。
「そ、そりゃあ例えばよ、一緒に映画見たり、外食したり、服とか一緒に見たりよぉ〜…外に一緒に出かけて、えーと、おんなじ時間を過ごすもんじゃねぇか?」
よし、俺まぁまぁそれっぽいことを言えたのでは、という仗助を他所にまた変な質問が返ってくる。
「なるほど!それをデートと言うのですね。ところでなぜそんなことを?」
これには億泰が
「それはお前…もっと仲良くなるためじゃあねぇの?」
と答えてやる。するとミキタカは、
「ふむ…地球人はめんどくさいですね」
なんていうので、不良二人組は明らかに「お前もだろ…」という表情をしてため息を吐くのであった。そしてまたしばらくミキタカが考え込んでいるのを見ている2人だったが、やがてミキタカが2人の方を向いて声を上げた
「お2人とも、ちょっと手伝ってほしいことがあるんです」
✴︎
「こんにちは、鋼田一さん」
「こ、こんにちはミキタカさん…」
鋼田一はいつものように横に座るミキタカを見る。あのキス以降気まずいなぁと自分は思っていたが、ミキタカはそのような素振りを見せることが全くと言っていいほどなく、前のようにほぼ毎日ここに通っているのであった
しかしなぜか今日はまだ昼なのにここにいる。現在時刻は11時をちょっと過ぎた頃、いつもは晩ご飯を食べに来るのに。鋼田一は何かあったかなぁと思案しつつも世間話に入ろうとする。すると
「おーいミキタカー」
「来てやったぜ〜」
といつぞや聞いたことのある声が聞こえた。そちら側に鋼田一が目を遣ると、なんだか見たことのある人物が遠くに見えた。
それに思わず鋼田一は「ひ、東方仗助、虹村億泰!?」と声を上げるが、相手側はそんなのお構いなしと2人のいる鉄塔の方へ向かってくる。なんならミキタカも「おはようございます、仗助さん、億泰さん。今日はよろしくお願いします」とかなんとか挨拶をよこしている。
よく見れば2人だけではなくもう何人かいるようだが、顔は見たことがない。なんで、どうしてとあわあわしている鋼田一の手をミキタカがガシッと掴んで、鋼田一の目をじっと見つめて言葉を発してくる。
「今日は鋼田一さんに、お願いがあります。」
「な、なんなんですか!?!?というか、あ、あの2人は…!?というか2人じゃないし!あの人たちは!?」
ワタワタしているのも無視して、仗助たちはどんどん鉄塔に近づいてくるし、何が何だかわからないといった様子の鋼田一に、これまたお構いなしといった様子でミキタカは話始める。
「この前はいきなりキスをしてすみませんでした」
「い、いやそれはオレが言ったことだし…」
というか全然会話になっていないんですが…と嫌な汗までかいてきた鋼田一を他所に、仗助たちは鉄塔の真下ほどの位置について何かを広げているようであった。正直そっちが気になりすぎてミキタカの話があんまり入ってきていない鋼田一である
「その後ワタシも少し勉強して、コイビトになるためにはもう少しダンカイというのを踏み、もっと仲良くなってからなるべきだと言われました」
「は、はぁ」
「なので今日はワタシとデートに行っていただきたいのです」
「はぁ…」
しばらく仗助たちをまじまじ見ていたため一瞬何を言っているのか聞き逃したが、鋼田一はそのあとすぐ「え!?」とミキタカの方を振り向きまた大声を上げる。
「で、で、でで…デート!?」
「はい、そうです」
「デート!?お、オレと、ミキタカさんが?!」
「はい」
一度言葉を飲み込んでみるもやっぱり噛み砕けず、小声でデートデートと繰り返す鋼田一に、少し不安げな顔をしてミキタカは「いけませんか…?」と尋ねる。
「じゃあ、今下にいる人たちは…?」
「仗助さんたちは今日私たちのお手伝いをしにきてくれています。デートは、鉄塔の外に出ようと考えているので。」
それを聞いてまた鋼田一は「外ォ!?」とそこら一帯に響くぐらいの声を上げる。デートに外、珍しく昼頃からやってきたと思ったらいったいこの宇宙人は何を考えているのだと鋼田一はギリギリした頭痛に頭を抱えた。
でーと…?り、理由は…いや、聞き逃した気がするけどさっき言ってたような…いや、でも…外…外………?
自分が今鉄塔にいる理由は、東方仗助たちに勝負を仕掛けて敗北し、外の世界が尚更怖くなったからである。ここでも危ないのに、外の世界なんてもっと怖い。臆病で人嫌いで、ここから出るなんてあり得ない
「え、え、で、でも、わた、わたし、その、そ、外、こ、怖いし…………」
そんな不安が脳内を行ったり来たりし、掠れた声でそう呟く。
ミキタカは、しゃがみ込むような体勢の鋼田一の顔を覗き込み、目を合わせて話しかける
「大丈夫です、ワタシがずっとそばにいます」
鋼田一の目に相手の宇宙のようなチカチカが映り込んだ。どうしようどうしようと冷や汗ばかりが止まらない体に、自分たちの下から声が飛んできて鋼田一は思わずビクッと体を震わす
「おい鉄塔野郎、オレらまで使ってんだからつべこべ言ってないでさっさと行って帰って来いよなぁ!」
東方仗助である。
「お前には関係ないだろう東方仗助!」
というかそもそも外に対する不安を勝負でこちらに植え付けてきたのはどこの誰だったか。そんなことを考えると仗助の横の億泰まで「あん?おめぇこっちが全面協力してやってんのにその態度かよォ!」と声を上げてくる。
「鋼田一さん」
目の前から声が聞こえてミキタカの存在にまたふと気付く。自分は人付き合いが苦手で、昔から計画性がなくて。でも今目の前にいる相手は、人付き合いが苦手な自分でも居心地がいいと感じるような人で、自分の計画性のなさなんかひょいと飛んで超えるくらい予想外な人。というか人かどうかもわからない人…
「お願いします、一度だけでいいんです」
そんな人が、自分の手を握って一生懸命お願いをしている。人付き合いがてんでダメで、人が嫌いな自分のことを必要としアプローチしてくれている。こんな時、普通の人間ならどうしたらいいんだ
「………………う、うーーーーーん」
「鉄塔の野郎、頭抱えちまったぞ仗助ぇ」
「さっさと行ってこーい」
下で男子高校生たちがヤジを飛ばす。彼らが連れてきたもう2人の人間…というより1人と1体と1匹もようやく鉄塔の真下に到着したようで、こちら側を不思議なものを見る目で見つめていた。
「み、ミキタカさん」
「なんですか?」
「…お、オレ、服とかこれしかないし、その、もしかするとずっとここで住んでたからに、ほんとに…外、想像できなくて…」
「大丈夫です、知ってます。でもあなたと行きたいんです。ですがそこまで怯えられてしまうと、無理をさせてしまうのには少々気分が乗りません」
そう言って、眉毛を八の字にするが、それでも優しい瞳でミキタカは鋼田一を見ている。
「なんでオレと…なんですか…?」
「言った通り、アナタと仲良くなりたいからです。デートには家でできるものもあるそうですが、アナタと一緒に外を歩いてみたいです」
「ほ、ほんとに…オレと、その、で、デートを……?」
「はい、モチロンです」
そう言ってミキタカは頷く。
鋼田一は、一度ゆっくり深呼吸をしてみる。
目の前にいるのも、一緒に外出するのも、自分と関わる人間は、この自分が心を許せたミキタカさんだけ。他の人は気にしなくていい。外に出たからといって突然死ぬわけじゃない…見知らぬ人に嫌われるわけじゃない…
長い長い自己暗示を何度も繰り返した末、鋼田一はやっと顔を上げてミキタカを見つめて言う。
「…………ほんとに、オレ、外出るの、怖くて……でも…その、そばで…た、すけて、くれる、なら……」
その問いに、ミキタカはすぐに元気よく答える。
答えは決まっている。
「モチロンです!」
そう言うとミキタカは鋼田一の手を繋ぎ直して鉄塔を降りるよう手を引いた。鋼田一はうわ、と声を漏らしつつもミキタカに連れられるがままに鉄塔を下る。鉄塔を下り切る前に、ミキタカは仗助と億泰にニコニコとしながら声をかけた。
「仗助さん、億泰さん、それではしばらくよろしくお願いします!できるだけ早く帰ってくるつもりです」
「おう、まぁ俺はじっくり楽しんでくればいいと思うぜ」
「なんてったってデート、だからなぁ!」
「ありがとうございます、
仗助さんと億泰さんも楽しんでください。
それでは!」
そう言葉を交わしたあと、ミキタカはいつも鉄塔から帰るみたいにひょいと鉄塔を降りる。と、ここで、鋼田一の頭の中にふと鉄塔の機能が過ぎる。散々出ようとしても出してくれなかったこの鉄塔が、今出ようとしたところで自分を出してくれるのだろうか。また鉄塔の一部に変化してしまうのではないだろうか
頭では分かっていた。この鉄塔の中には今、東方仗助と虹村億泰(そして他数人)がいて、自分が出たところでおそらく問題はない。いや、しかし…
またグルグルと不安が襲ってきて、鉄塔から最後の一歩を踏み出せずにいる鋼田一の眼前に、手のひらが真っ直ぐ差し伸べられた。
「さぁ、行きましょう鋼田一さん。」
前を向くと、いつもより瞳も髪もキラキラと、上機嫌に見える自称宇宙人が手を真っ直ぐ前に出して自分を待っていた。恐る恐るその手を取って、彼から勇気をもらうように一歩、鉄塔から踏み出してみれば、鋼田一の体はなんともなかった。
あんなに出たがったり出たがらなかったりしたのに、グッと体を引かれてもう一方の足も鉄塔から出てしまえば、後はもうそんな思考から自由の身だった。普段歩く場所が決まった鉄塔の上で暮らしている分草原にはどこに足を置けばいいのかさえ不安でたまらなかったが、横ではミキタカが自分が支えていますからという顔でこっちを見ていた
だから自分もなんとなく大丈夫な気になって鋼田一はミキタカの手を握りつつ草原を一歩一歩踏みしめて前に進んでいく。歩くのに一生懸命で言葉を交わす余裕がまだなかったが、横で杜王町を見つめるような慈しむ顔で自分の足取りを見つめている宇宙人を見ていると、この人は本当に宇宙人で、なんらかの力をオレに分け与えてくれてるのかもしれないと考えるほどには、鋼田一は自分の横にいる存在に安堵していた
それに本人の自覚があるかはまだ定かではない。
✴︎
「…まさか鉄塔野郎が恋人になりたいやつだったとは…」
鉄塔に取り残された億泰がぽつりと口を零す。
数日前ミキタカから不良2人は「手伝ってほしいこと」を授かった。それは、「次の休みに自分は鋼田一とデートに行ってみたいので、デートに行っている間鉄塔に入っていてくれないか」ということだった。
「宇宙人は何考えてるかわかんねぇなぁ…」
仗助も返事をする。あんなでもまぁ友人の1人なので、断る理由もなく仗助は朋子を、億泰は親父と猫草を連れてピクニックという体で鉄塔の下までやってきた。朋子に「なんで鉄塔の下?」とは言われたが、最近暑いから日陰にもなるし、面白い奴が見れるしよ、と適当に誤魔化しておいた
朋子も女手一つで仗助を育ててきただけあって(後は宮本輝之輔とかいうド変態やジョセフ・ジョースターとかいう不動産王などと関わったりしたこともあって)ちょっとやそっとのことでは動じないので、「なんかよくわかんないけど、とりあえずお昼食べる?」と先程不良少年たちが広げたピクニックシートの上に作ってきたサンドイッチを広げ始める。
「おぉ!ありがてぇっス!
俺も大したもんじゃねぇんですけど、お弁当作ってきたんでよかったら食ってくださいっス!」
億泰も自分が朝起きて作った重箱の弁当を広げ始めた。こっちはこっちで家族交流にもなるしいい時間が貰えたかもなと仗助は思う。
鉄塔には誰か1人が入っていれば大丈夫だし、持ってきたカードゲームでもしたり億泰と変わりばんこで入って周辺を散歩したりのんびり時間を過ごせば、帰ってくるまで時間は潰せるかなぁなんて考えながら、仗助は朋子が作ってきた卵サンドに手を伸ばす
「ちゃんと手拭いてから!」
「イテッ」
そして朋子にお手拭きで手をペチンと叩かれた。
