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うたわれるものたち

マシロ様の旅路



自分は今、神様をやっている。

遥か昔、ただの人間やってた時は、引きこもりつつも働かされるスーパーハカーだった。

ある日兄貴の実験で眠らされた後、目が覚めたら「ハク」と言う名を与えられ、隠密と言う名目で働かされる何でも屋になった。

やがて親友に後世を託されてから、「右近衛大将オシュトル」を名乗り、戦世を駆け巡った。それはもうメタクソ働いた。

そして最後、親友との約束を果たしたのもつかの間、何やら雑多な後処理を片付けたり道々目に付いた雑事に関わっていたら、いつの間にやら神様扱いされて「マシロ様」なんぞと呼ばわるこの頃である。


「ったく…。この甚だ疲れる超過労働の手当は、一体誰に要求すれば良いのだ…」

最近身に付いた権能である。。

何しろ神様業初心者であり、通常の就職なら三ヶ月は研修期間を設けてもらいたいものだし、更にはしっかりしたテキストと講師を求める所なのだ。

始めの頃は、通りすがりの誰かの願いを聞き、その代償に何かしら無難なものを拝借していた。
代償が無きゃ願いは聞けないと思っていたし、実際、叶えてしまったら、代償を求めたい欲求に駆られるのだ。
しかしながら、果たしてどんな代償を奪ってしまうのか、やらかしてしまわないかと内心ビクビクだった。(何しろハクオロさんと言うやらかし先生が、前例としていらっしゃいますからな)
だが慣れてくると、意外に良識的な範囲で留める要領が分かってきた。

そうするとやはり(元)人間。慣れとは油断に通じるもので、ついつい己の欲がボチボチ顔を出す。
もちろん最初は警戒した。一度それで痛い目にもあっている。
しかし喉元過ぎれば何とやらで、己が支払う代償も何とか加減出来るのでは?…などと甘い考えがよぎるのである。
やがて甘い誘惑→いやいやちょっと待て…→でもちょっと試しに…→いやだからもうちょっと辛抱ってモンを…→。
と言うループが、何度かあった。

そしてとうとう願ってしまった。
実にあっさりと。
…いや、ついうっかり…、と言うほか無い。

だって仕方ない。命の危険を感じたのだ。
神様なら死なないのでは?…と言う事も忘れる程に。
単純に、…こわかった…。

なんでかと言うと、タタリ様が襲って来たのだ。
しかもめっちゃ突進して来たのだ!
何だあれ?!まさか知り合いとかか?
確かに何やら唸り声まで聞こえたが…。

とにかく、無我夢中で、ついうっかり叫んでしまった。
「頼むから、成仏してくれ!」

うん。とりあえず、しっかり成仏したっぽかった。
何やら神々しい光を放ち、天へと登っちゃった感じで、後には清らかな感じの草花が生えていた。

うn。自分はいい事したに違いない。タタリ様は成仏されたのだ。

他に方法無かったの?と思わなくも無いが、仕方ないだろ。
インスピレーションってやつだよ。

そしてこの、初めての試みによって、初めてのデータが取れた。
己の願いを叶えた場合の、良識的な範囲に加減した、代償とは如何なるものなのか。

answer↓
その代償は、体力であった。

そう。自分の願いを、権能で叶えてしまうと、HP激減により、一歩も動けなくなってしまうのである。←イマココ。

「クッソ何だこれ!?
ハクオロ皇でもウィツァルネっちでもいいから、こう言う事はちゃんと取説作って事前に注意喚起してくれなきゃ困るだろ!!」

悪態つきつつ大の字に寝るも、ジタバタする体力さえ残ってない。

「ヤベエ〜。このまま自分も成仏するのかな〜…。」

力が入らないので思考も呟きもすっかりネガティブになってしまった。

「問題ない」
「しばらくお休み下さい。そうすれば自然に体力も回復します。」

「ウルゥル、サラァナ…。お前ら一体どこ行って…?
今、自分、タタリに…」

「ずっとお側に」
「すぐ側に居りましたが、タタリに害意が無い事を察したので、見守っておりました。」
「救いを求めていた」
「あのタタリは主様を神と知っておりました。
主様に成仏を願う為、疾く参ったのです。」

「…………。(な、何だって〜〜〜〜!?)」

果たして、精神的にも襲い来る脱力感に苛まれ、寝落ちに至る。
ーーーーー完。

「どうぞ安らかに」
「主様がタタリを浄化されたこの洞窟は、今後常春の聖地となり、主様を癒す場となりましょう。」

「「ごゆるりと、お休み下さい。主様」」



ーーーーーーーーー


マシロ様の旅路 2



考えてみれば、これ程深く心地良く眠るのは久しぶりだ。

かつて「ハク」としてのんべんだらりと暮らしてた時には、ウコン達と呑んだくれた後、酔っ払って寝落ちして、昼まで爆睡出来たりもしたもんだ。

まあ今となっては、帰らぬ遠い日々と言うヤツだ。

そういやあのタタリ、あの時初めて洞窟で会ったヤツだったりして…。

初めて会った時も何やら話しかけて来てた気がしなくも無いし、もしかしたら本当に知り合いだったのかもしれないよなぁ。

まあ少なくとも、もしあの時のタタリなら、二回は会ってるから顔見知りと言えなくもないか。
と言っても自分は見分けなんぞ付かんがな。はは…。

「なぁんだ、あんちゃん。何か面白い夢でも見てるのか?」

「!!?」

目を開けると、懐かしい顔があった。

「ウコン!何でここに?!」

嬉しさと驚愕に固まりながら思わず上体だけ起き上がった。
おや?体が軽い。

「そりゃあこっちのセリフだぜあんちゃん。現世で楽しくやってるはずのあんちゃんが、何故か幽体だけ戻って来てんぞ?」
「は?幽体って」
言われてみて、自分の体を確認し、まわりを見渡す。
なるほど。ここは自分が寝ていた洞窟ではなく、兄貴やマロロ達が居た現世と常世の狭間らしい。と言う事はまさか自分、体力尽きて生死の境を彷徨ってるんじゃ…!?

「それは無い」
「ご安心下さい、主様。
ただいま現世にては身体を癒して居りますが、主様の幽体は精神(こころ)の癒しを求めて、懐かしい親友の居られる常世へと一時的に飛翔されて居られるのです。」
「時空は紙一重」
「今の主様にとって現世と常世の行き来はほんの一瞬。
時間も距離もなきに等しいのです。」
「「どうぞ心ゆくまで、お楽しみ下さい」」


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