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設定「テニスの王子様」の夢小説です。四天多めと言いつつ雑食。
夢主はテニス部マネだったり、同級生だったり、先輩だったり後輩だったりします。成人済みのお話もあり。
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「ぜーんざい」
「…人の名前間違えんなや。もうボケたんか」
「はあ?うち『ぜんざい』て言うただけなんやけど。うわ自意識過剰~」
ほんまやめてほしいわ、やて。それはこっちのセリフや。腹立ってアイツの頭の尻尾を引っ張ったら「うわ最低。財前がか弱い女子いじめる」とかぬかす。ホンマありえへん。何やねん。
「いちいち突っかかってくんなや」
「何も突っかかってへんやん。そっちこそ何なん」
藤村唯子。何の因果か、3年間クラスが一緒の腐れ縁。仲は…良いんか悪いんかわからん。男友達みたいに腹割って話せるときもあれば、つんけんしよって話にならんこともあって、正直何やねんと思うことの方が多い。
「…別に。何もないわ」
「…何やの」
何回も言うけどな、それはこっちのセリフや。何やねん、全く。
「…ほな、宿題しっかりやるんやで!また9月にな!」
センセの声を合図に青空に歓声が弾けた。明日からの自由な日々に、あちこちでいろんな相談が交わされる。中学最後の夏休みが始まる。それは楽しみと同時に、去年見れへんかったてっぺんからの景色を見るための、戦いが始まるということでもあるんやけど。
「ぜんざい」
例の呼び方が、部活に行こうとした俺の動きを止める。
「…何やねん」
「明日から夏休みやな」
「せやな」
「…大会あるんやんな」
「せやけど」
というかそれしかあらへん。バスケ部もそうやないんか、と藤村の顔を見上げたら、思わぬ表情にぶつかって、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「…藤村?」
「っ、そう、そうやんな。ぜんざい、部長やし!」
「…おん」
「そうやんな!うん、ごめんやで!ほなまた!」
「あ、おい」
言うなり藤村はぱっと身を翻した。泣き出しそうな、怒ったような、でも困ったような。藤村のあんな表情は知らん。何やねん。何や言いたかったんとちゃうんか。
「あ」
(忘れとった…大会、見に来いて言うつもりやったんに)
毎日軽口を叩き合っている割には、俺はアイツの連絡先を知らん。メールもLINEも電話もインスタも、一個も。せやから、学校で会われへんかったら連絡する手段がないねんけど。
(ま、しゃあないか)
別にどうしても見に来てほしいわけやない。ただ、テニスしとるとこを見たら少しは「ぜんざい」呼びが直るんちゃうかな、と思ただけで。そう、そんだけの理由。…多分。
(…明日の準備、せな)
『いよいよ明日からやな!』『応援行くで!』等々、先輩らから(特に謙也さんから)延々と届くLINEに返信し終わり、ベッドから身を起こす。といっても俺が持っていくのは数枚の書類と自分のラケットくらい。
「…何やこれ」
鞄を開け、監督から預かった書類を取り出そうとして手が止まった。クリアファイルや筆箱に交じって、見覚えのない真っ白な封筒が入っとる。確認しようと摘み上げて—— 呼吸が止まった。
『ぜんざいへ』
見覚えのある丸文字。そして、その呼び名。
「何してんねん、アイツ…」
書かれていない差出人。でもそれで十分やった。十分わかった。かさり、と封筒を開く。
「…必勝祈願」
中から出てきたのは朱色に金字が光るお守り。かあ、と顔に血が上った。
(な、んやねん…何してんねん)
藤村、お前こんなことするキャラとちゃうやろ?こんな、可愛らしい真似する奴とちゃうやんな?こんなモンが入っとるやなんて全く気づけへんかった。どくんどくんと心臓が鳴る。教室で別れた時のアイツを思い出す。
(『これ』のこと…言いたかったんやろか…)
泣き出しそうな、怒ったような、でも困ったような。今まで見たことがなかったアイツの顔。けど俺は…それを、確かに、可愛ええ、と思ったんや。
「ほな財前部長、いっちょ頼むで~」
「…はい」
照りつける太陽がコートをじりじりと焼く。府大会S3。長い長い戦いの第一歩。バッグからラケットを取り出し、シューズの紐を結びなおして、客席をぐるりと見渡す。白石先輩がおる。謙也さんがおる。千歳先輩や師範もおる。俺のおかんもおる。クラスの奴の顔も何人か見えた。そん中に。
(アイツ…あれで隠れとるつもりなんやろか)
コートの脇に立つ大きな木。その陰に隠れるようにしてこちらを窺う小さな影。見慣れん水色のワンピースをもっとよく見たい、と思ったことは、今は胸の中にしまって。
「藤村!」
声を張り上げる。周りがざわめいたけど、気にしとる場合やない。ひらりと風になびく水色に焦点を絞った。
「そこでよう見ときや」
ポケットの中の「必勝祈願」をぐっと握りしめる。お前によう聞かせたるわ。
—ウォンバイ四天宝寺中 「財前 光」 てな。
俺の、俺と藤村の夏が始まる。