桜、舞う
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設定「テニスの王子様」の夢小説です。四天多めと言いつつ雑食。
夢主はテニス部マネだったり、同級生だったり、先輩だったり後輩だったりします。成人済みのお話もあり。
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出会ったのは中2の春。初めて会った貴方の印象は「最悪」だった。
窓の外で、ふわり、桜が舞った。去年よりも遅く咲いたそれは、春の光の中で淡く輝いて見える。
「ほれ席着きや~」
間延びした声が教室内に響く。ガタガタと椅子や机が鳴る音。視線を前に向けたら立っていたのは、ダサい恰好をした男の人だった。
「ほな日直、挨拶よろしゅう」
高くも低くもない声。肩まで伸びた髪。隠れた左目。若いんだろうな、ということはわかるけど、年齢不詳。そしてよれよれのコート。四天宝寺には確かに変わった先生が多いけど、この人は群を抜いて「変わっている」気がした。
「…ぁ、なあって!」
「っ、何?」
突然肘をつつかれてはっと我に返ったら、教室中の視線が私に集中していた。もちろん—その人の視線も。
「そないに見つめられたら照れるわ」
「…え」
「藤村やな?」
「…はい」
「おっしゃ。ほな次—」
一瞬遅れて顔がかあっと熱くなる。出席をとっていたことにも気づかなかったなんて。最低最悪。しかも「見つめてた」だなんて。そんなことは、ない。誓って一切、ない。
「ん。全員出席やな」
ぱたん、と出席簿を閉じて。
「あー俺が今年一年、自分らの国語のセンセや。渡邊オサムていいます。堅っ苦しいのは苦手やからオサムちゃんでええで」
そう言ってぐるりと教室を見渡す視線。「センセ、彼女は?」「何歳?」なんてお決まりの質問が飛び交う中、何だかざわざわするものを感じた。何かはわからないけど、何か。
「ま、のんびり勉強しよな。よろしゅう」
とにもかくにも、それが彼—渡邊オサムとの出会いだった。
国語は大好きな教科だ。知らない言葉を覚えるのも、自分で文章を作るのも、知らなかったお話を読むのも。
「ほな感想文返すで~」
去年の斎藤先生はおじいちゃんだったけど、明るくて本当におもしろい先生だった。今年の担当も斎藤先生になることを楽しみにしていたのに。
「名前読んだ奴から取りに来てや」
渡邊オサムの授業は…見た目とは反対にすっきりしていた。わかりやすいし、おもしろい、んだろうな、と思う。でも何だろう、最初に抱いた印象のせいなのか、私はいまいち授業に入り込めないでいた。あんなに好きな国語の授業なのにも関わらず。
「次、藤村」
のろのろと立ち上がる。先週の授業で書いた感想文は『最初の場面を読んで自分が思ったことを書きなさい』といういたって普通のもの。何書いたっけ、なんてぼんやり思いながら紙を受け取る。
「こんなとこ、よう気づいたな」
受け取った紙をとん、と突かれて慌てて顔を上げる。正面からばっちり目が合って慌てて踵を返した。自分の席で改めて用紙を見てみれば、何ヶ所にも線が引かれていて、その中の一ヶ所に「これに気付く中学生はあんまりおらんと思う。藤村は読書好きか?」なんて書かれていた。どきり、と心臓が跳ねる。何でわかったんだろう、私が読書好きだってこと。わかるの?まともにしゃべったこともないのに、こんな紙切れ一枚で?信じられない、と渡邊オサムを見つめるけれど、いつもの調子で授業を進めるその人からは—何も、読み取れなくて。
少しだけ、ほんの少しだけ、何かが変わった気がした。
だけどその変化は、その日の6時間目、教科係を決めるHRで「国語係」に立候補したくらいには大きかった。