THE セミファイナル


学生にとって貴重な休息時間であるのはもちろん、私にとっては恋人と過ごす貴重な一時でもある昼休み。

「この前セミと遭遇しちゃって...」

話す内容はあれだけど、こういう何気ないやりとりが幸せって言うよね。

「迂回路がなかったら家に帰れなかったよ。この時期セミファイナルの恐怖に怯えて過ごさなきゃだから悲しい」
「足の開閉で判断出来るピニョン。開脚なら存命、閉脚なら絶命ピニョン」
「博識で超素敵なんだけど見る余裕ないってか見たくないかな」
「補足すると必ずしも開閉で生死が確定するわけではないピニョン」
「今し方披露した予備知識の意味とは」
「それともうひとつ、さっきのより確実に生死判断出来る方法があるピニョン
「そ、それは一体...?」
「セミの近くに沢北がいる場合、ほぼ100%生きてるピニョン」
「納得した」
「まあこの方法は条件必須なうえ、もう使えないから大して役には立たないピニョン」
「もっと早く知っておけば......いや、知っても逃げ道ないと意味ないね」
「エンカウントしたが運の尽きピニョン。迂回出来ないなら諦めて持久戦しろピニョン」
「デッドオアデッド...!」

そんな殺生な、と出かけた言葉は飲み込んだ。
このタイミングで言ったら大喜利やってるみたいだし?それはほら、なんか恥ずかしいし?

「...困るなぁ」
「なにがピニョン」
「うーん、将来的に?実家出て見知らぬ土地に住むことになったらさ、たかが虫でいい大人がーって言われちゃう」

こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なのにね。それこそホント、セミファイナルのセミと同じ。
...って、やだやだセミと同じとか!今のなし!

「深津は「頼れば良いピニョン」...え?」
「頼れば良い話ピニョン。一緒に暮らすことになる相手が目の前にいるピニョン」

鏡を見なくても、人に聞かなくても分かる。多分、今の私はものすくごく間抜けな顔をしてるって。
でも、何気ないやりとりが幸せだと身をもって証明出来ました。
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