彼と私と日やけ事情
「沢北君ってちゃんと日焼け止め塗るんだ」
「...はい?」
特に意味はないのだけど、目にした光景がそのまま言葉となって出た。
「え、あ......はい」
思いがけず行動を実況されてしまった本人は、文字通り目を丸くしている。頭の上にクエスチョンマークが見えるのも多分気のせいじゃない。
それでも、クラスメイト相手に敬語になる程、不審な発言でもなかったと思う。
「あ、ごめん。丁寧だなって、つい」
あなたのことを見てました!と白状しているようなものだけど、事実なので弁明するつもりはない。見ちゃうよ、好きな人だもん。
それに、
「あー...後々困るだろ?今ちゃんとやっとかねーとなって」
当の本人は全っっっ然気づいてないからセーフ。
「...私、ちっちゃい頃盛大にやらかしちゃってお風呂が地獄の拷問タイムになったなぁ」
「うわ、聞いてるだけで痛いな...」
「今でも覚えてるくらいにはね......沢北君のそれ、ジェルタイプのやつ?」
「そーそー。見ただけで分かんの?」
「まあそれなりに。でもそれ、汗で落ちない?」
「あーやっぱ汗に弱いやつか。付け心地は気に入ってんだけど」
「ミルクタイプどう?ものによってはあんまりベタつかないし。あ、私が使ってるやつ試してみる?」
「いーの?」
「いいよー。ほら、手出して」
「お願いしまーす」
手の甲を上に差し出されたその様が、猫みたいでかわいい。もちろん猫にしては大きすぎるから、トラやライオンの方が近いかもしれないけど。
どれにしたって猫っぽいのは一緒だなと考えながら、取り出した容器を軽く振ってちょん、と乗せる。
「どう?」
「おお、いい感じ!」
「でしょ。気に入ったんなら沢北君のも一緒に買っておこうか?そろそろ買うつもりだったし」
「あーそれなら...悪いけど頼んでいいか?」
「いーよいーよ。今週中に持ってくるね」
「ありがとな」
「いーえ。ふふ、お揃いだね」
「だな、なんかワクワクする」
「...っ、うん、ほんと、に...ね」
私の気持ち、本当に気づいてないよね?と疑いたくなるような発言。思わず言葉が変な詰まり方になってしまう。
ああどうか、今日の出来事が夏の幻じゃありませんように。
