虫とエンカウントしまして
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恐怖が限界突破を迎えると、人は言葉を発せなくなるらしい。
私が今直面している恐怖だが、某害虫により行手を阻まれているうえ、その害虫がこちらに少しずつ近づいているというもの。ちなみに私は大の虫嫌い。
つまりね、今、とってもピンチです。
(なんでこんな、誰もおらん場所と時間に出てくんねん...!目は離せん、声も出せへん...詰んだわ...)
声に関しては出さないと言うより出せないのが正しいのだけど。
いずれにしろ、持久戦になれば心を持たない相手より圧倒的にこちらが不利。何故学校でこんな目に遭わなければならないの?
(現実逃避しよかな...いや、意味ないわどうしたら......って、えっ)
ほんの一瞬、目の前の敵から意識が逸れたのをヤツは感じ取ったらしく、悍ましい羽音と共にこちらへ向かってきた。当然、身体は硬直して動けないでいる。
否が応でも終わりを悟るしかない。
「...あ、淳君!淳くーん!」
最早ここまで...と、ようやく絞り出せた声が紡いだのは恋人の名前。
「呼んだ?」
でもまさか、それに応えが返ってくるとは思わなかった。
*
*
*
「死ぬかと思った、ホンマ...」
「せやなぁ、間に合うて良かったわ」
ホッとしたせいか、大袈裟だと茶化さないその言葉に思わず涙腺が緩む。
あれからすぐ、彼が光の速さでヤツを仕留めてくれたおかげで、私の心はまた無事に安寧を取り戻した。まさに、恋人様々である。
「...ところで淳君、今部活中ちゃうん?」
「ちょうど休憩中。で、忘れ物取りに戻ったとこやってん」
「そやったんや...」
「...けど」
「けど?」
「やっぱ運命やと思うわ」
「え?」
「奈緒子ちゃんのピンチ救えたん、いろんな偶然が重なったからやろ?せやから運命やなって」
ニコニコ語る彼の横顔を見つめているだけなのに、どうしたわけか再び声が出なくなってしまった。
...まあ、出ないものは仕方がない。声の代わりに表現する方法はある。
絶妙なタイミングで目の前に現れた、さながら王子様のような恋人の手を、彼の言葉を肯定するように強く握った。