苦手なんです、これ
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「...岸本、口開けて」
「は?」
「よし、そのまま閉じんとってな」
「いや待てや、おい!」
口元へ伸ばした腕をガシッと掴まれても尚、力は緩めない。
「くっ...岸本、あんたなかなかやるな..!」
「どっかのワルモノかお前は!」
「失礼な!超善良な一般市民や!分かったら往生してその手ぇどかし!」
「超善良な一般市民が往生て言うか!ほんでそのセリフまんま返したるわ!」
当然だが、先に根を上げたのは私だった。
こっちは万年帰宅部で運動嫌いのか弱い女子、相手は現役運動部の男子。力の差は明瞭だ。
「こんな可愛い女の子からアーンしてもらっといてなにが不満なん?」
「なにがアーンや。毒飲まされる罪人の気分やったわボケ」
「誰がボケや、アホ」
「誰がアホ......あーもうええわ、キリない。で?自分の嫌いなもん押し付けた理由はなんや」
「それもう理由全部言うてへん?岸本はいつからそない意地悪するようなったん?」
「なんでオレが悪いみたいになっとんやコラ」
「そうは言うてません。分かってんのやったら素直に食べてくれたらええのに、て思ただけですぅ」
「問答無用で口にもの突っ込んでくるだけあるな、クッソ腹立つ」
少し怒らせすぎたかも、と逸らしていた視線を彼の方へ戻す。さぞや険しい顔をしているに違いない......そう思っていたのが、予想に反し表情はいつもと変わっていなかった。
まあ、普段も穏やかとは断言し難いのだけど。
...と言うか、何故彼は口開けているんだ?
「...虫歯はないみたいやけど?」
「誰が虫歯見ろ言うたんや。早よその玉葱寄越せや」
「え、食べてくれるん?」
「貸しやけどな」
「せやったら今度トマトあったら食べたげるわ」
「待て、なんでお前がそれ知っ...んぐっ!」
最後まで言い切る前に玉葱を口へ捻じ込む。さっきよりも更に強引ではあるものの、今度はちゃんと合意を得ているのだから大丈夫だろう、多分。
さて、言いかけた質問にはここで答えよう。
どうして私が彼の、岸本の苦手な食べ物を知っているのか。答えは実にシンプルなもの。
キミが思ってるより、ずっとキミを見てるから。