南夢
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「あ、烈」
聞き慣れた声に呼ばれる名前。
薄暗い夜道で顔が見えなくとも、相手が誰かなんてすぐに分かる。
「おー......なんやハナか」
声の主は幼馴染の西野ハナ。
薬局店であるうちとは、互いの祖父母の代からの付き合いがあったらしい。覚えてこそないが、自分達も生まれてすぐに顔合わせさせられていたとか。
「なんやとはなんや!声で気づかんの?幼馴染やのに?幼馴染!やのに!」
「あーその無駄に長ったらしいツッコミはハナやな」
「ひっど!」
軽口もを叩けるのも、兄妹みたいな仲で育ったこの関係性故のもの。
そうでなければ、こんな愛想のない返しなど出来ない。言うなれば信頼の証だ。
(よう言うたら、やけどな)
「てか、今帰りなん?随分遅いやんか」
「そのセリフ金属バットで打ち返したるわ」
「そこはバスケちゃうん?」
「アホ。バスケは打ち返すもんちゃうやろ」
「あはは、それもそやなぁ」
「お前こそなにしとったんや」
「友達の恋愛相談のっててん。ほんで気づいたらこんな時間やった」
「...アホやな」
「アホちゃうし!女子トーク舐めんとき!」
さて。
通う高校こそ違えど、ハナは口も聞けない頃から十数年もの間を共に過ごしてきた、親友であり家族でもある存在。
そんな相手に、今更...
(...好きとか、言えへんわ)
進学してしばらくの間、イライラすることが多いと感じる時期があった。尊敬する人の元でバスケをやる為に入ったのに叶わなくなったからとか、単純に環境の変化によるものだとか、ストレスの要因に心当たりがないわけではない。
にも関わらず、新しい環境に慣れてからもずっと居座り続けていたモヤモヤしたやつ。
その正体が明るみになったのが、久方ぶりにハナと顔を合わせた時だ。
点と点が繋がるような感覚になりながら、自分でも意外な程すんなり受け入れた感情。それまでの『好き』とは違う、特別なものだと理解したのが2年前。
なにベタな展開歩んどんねん...と、セルフツッコミした記憶が懐かしい。
(...ほんでコイツもどう思っとんのか分からんし)
普段は能天気で表情が全てを物語るようなタイプだが、距離感の近さ故に読み取れないでいる。
まあ、下手に期待をしてしまわないよう自制をかけている...と言うのもあるけれど。
「...聞いとるか?」
「え......あ、え?ごめん、なんて?」
「自分から話振っといてそれか。ええ度胸しとるやないか」
「わー!ごめんて!」
例えばほら、こんな風に。
些細な会話にも心の中では湧き立っている自分とは反対に、なんでもないように振る舞う姿を目の当たりにすると、柄にもなく凹んでしまう。悪態をついてしまうのも、悟られたくないから。
ハナからすればいつもとなんら変わらないオレが映るだけ。
「次はないで」
「え、許してくれるん?やっさしー!」
「取り消すわ」
「すみませんでした!」
それでも、結局こんななんでもないやりとりさえ幸せを感じるのだから、我ながら単純だ。恋人へと関係を深められたら、また一段と多幸感に包まれるのだろう。
正直なところ、そうなれたならと望む自分も否定出来ない。
(...そない都合ええことばっかちゃうしな、世の中)
好かれている自信はあれど、それは2年前の自分が相手に感じていたのと同じもの。あくまで幼馴染、loveじゃなくlike。
それに。
このまま隣を歩いて、話をして、一緒に笑って...小さいけれど大きな幸せを手放すには、まだ勇気が足りない。
でも、いつか。
(今は無理でも、絶対...)
決意を固めるまで、もう少しだけ秘密を抱えたままでいさせてほしい。