南夢
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『南龍生堂』
...は、うちの近所にある薬局。徒歩10分もかからない距離で、親どころか祖父母の代からお世話になってる。
お店そのものはもちろん、経営する南ご一家にも。
「あ、烈」
そこの一人息子は、私と同じ高校三年。学校は違うけど。
さすがに覚えてないものの、生まれてすぐに顔合わせもしてたらしい。両家の親密度+お互い一人っ子ということもあって、兄妹みたいに育った。
所謂、幼馴染ってやつ。
「おー......なんやハナか」
「なんやとはなんや!声で気づかんの?幼馴染やのに?幼馴染!やのに!」
「あーその無駄に長ったらしいツッコミはハナやな」
「ひっど!」
体格とは反対に、愛想の方は決して良いと言えない烈とこんな軽口を叩けるのも、付き合いの長さあってこそ。
「てか、今帰りなん?随分遅いやんか」
「そのセリフ金属バットで打ち返したるわ」
「そこはバスケちゃうん?」
「アホ。バスケは打ち返すもんちゃうやろ」
「あはは、それもそやなぁ」
「お前こそなにしとったんや」
「友達の恋愛相談のっててん。ほんで気づいたらこんな時間やった」
「...アホやな」
「アホちゃうし!女子トーク舐めんとき!」
無遠慮なこの距離感にホッとする。
親友であり、家族でもあるこの関係が、この先も続いてほしいと思ってた。
そう、過去形。
口も聞けない頃から十数年もの間、すぐ傍で過ごしてきたのに、それを今更...
(...好きとか、言えへんよ)
高校が変わった、ただそれだけの理由でめっきり顔を合わさなくなり、それまでの『好き』とは違うものだと気づいたのが2年前。
ベタだと言われたら否定出来ないけど、本当のことなのだからどうしようもない。真実はいつもひとつって、某少年探偵も言ってるもんね。
気持ちを自覚してからは、過去の自分が如何に恵まれていたのかもしみじみ感じる。
烈はバスケに時間を割いてはいたけれど、学校と通学路が同じな分平日は必ず会話していたし、休んだ日にプリント届けたりなんてこともあった。時には親からの使いを自分達伝手に受けることも。
(例のブツや、とか言うて...ふふ、懐かしいなぁ...)
微笑ましいやら恥ずかしいやらの感情が混じる思い出。
まあ、現実は自覚した途端にハードモードを強いられたわけだし、浸るくらいは許されたい。
ああ、私よ。そのなんでもない時間は数年後、焦がれる程貴重なものだと今の私から伝えておこう。
「...聞いとるか?」
「え......あ、え?ごめん、なんて?」
「自分から話振っといてそれか。ええ度胸しとるやないか」
「わー!ごめんて!」
「次はないで」
「え、許してくれるん?やっさしー!」
「取り消すわ」
「すみませんでした!」
でも、こんななんでもないやりとりに幸せを感じるのも、ハードモードならではかもしれない。
そりゃもちろん、烈が同じ気持ちで幼馴染から恋人へ関係が変われば、その幸せはもっともっと増すだろう。私も別にマゾヒストじゃないし。
(...けどそんなん、都合良すぎな夢やもんなぁ)
嫌われてはいないし、むしろ好かれているとは思う。
だけどそれは、2年前の自分が相手に感じていたのと同じもの。あくまで幼馴染、loveじゃなくlike。
(今はまだ勇気も出ぇへんし)
このまま隣を歩いて、話をして、一緒に笑って...小さいけれど大きな幸せを、簡単には手放したくない。
決意が固まるその日まで、もう少しだけ秘密にさせてね。