今日こそ、今日こそやってやるんだから...！

｢...淳君、ちょおこれ見て？｣

そう言いながら、ポンっと恋人の右肩に手を置く。
さあ、振り向け！

｢ん？どないしたん？｣

念は通じたようで、彼はくるりとこちらに身体の向きを変えてくれた。

ただし、肩を叩いたのとは逆方向に。

｢...んもおおお！｣
｢見てほしいて牛のモノマネ？｣
｢ちゃうもん！もう、分っとるくせに！｣

膨れっ面な自分とは対照的に、ニコニコと穏やか...と言うより面白がっている表情を浮かべている。

｢ごめんな？反応がかわいいもんやから揶揄いたなんねん｣
｢それ謝罪する気ないやつ！｣
｢けど、考えてみ？今時あない古典的で法則性も分かりやすい悪戯、引っかかる方が少ないやろ？｣
｢うっ...｣
｢今からやる！て雰囲気出とるからバレバレやし｣
｢くっ...｣
｢ホンマ、純粋やなぁ｣

笑顔の口撃で蓄積されていくダメージ。
もとより彼に口で勝てるとは思っていないけれど、やっぱり悔しくなる。

｢ほら、そない怒らんと、な？...まあそういう顔もかわいらしいけど｣
｢し、知らんもんっ｣
｢そない口尖らせて...チューしてほしいん？｣
｢ふんっ...そんなん言うてする気ない......っ！｣

全てを言い切る前に塞がれた唇は、軽く触れてすぐ離れていった。
でも、さっきまでの荒んだ感情を忘れさせるには十分。

｢な、なに...｣
｢してほしそうやったから。あかんかった？｣
｢そ、そうやない、けど...びっくりした、だけ...｣
｢...あ、そや。これからまたあの悪戯する度、チューすることにしよ｣
｢えっ...！｣
｢うんうん、我ながら名案やな...そういうわけやから、チューしたなったらいつでも呼んでな？｣

そう言って、淳君の指が唇をなぞる。異議を唱えさせない為か、意識させたいだけなのか、意図は分からないのにドキドキしてしまう自分が恥ずかしい。

結局、悪戯をしてもしなくても彼の一人勝ちなのだと、柔らかく微笑む瞳が物語っていた。