拍手文①
今現在、自分の置かれている状況は中々ハードだと思う。
「待たんかいコラァ!」
「イヤに決まっとるやろ!あほー!」
何故って、ものすごい形相で恋人に追いかけられているから。
「はよ観念した方が自分の為やぞ!」
「そっちこそ!はよ諦めた方がええんちゃう?!」
「こちとら走りっぱなしのスポーツで鍛えとんのやぞ!」
その言葉通り、向こうは余裕の態度を崩さない。対してこちらは徐々に息が切れつつあるせいで、セリフを返すどころか考えることすら放棄した。
逃げ足には自信があったが、万年帰宅部は走行スピードより限界を迎える方が速いらしい。
「確保!」
なんてくだらないことを考えているうちに、とうとう捕まってしまった。
「ひ、人を...犯罪、しゃ......み、みたいに...言わんとって、くれる?」
「いや、息切れすぎやろ...先に呼吸整えろや」
「......はぁ............あー、落ち着いた」
「話戻す「いやちょっと待って」...は?」
「実里の言いたいことは分かんねん。けど、うちにも言わせてな?指めっちゃ痛い」
「知るか!自業自得やろ!」
名前を呼びながら肩を叩いて、振り向いた相手の頬を指でつっつく。友達同士でもよくやるその戯れをけしかけたことが、そもそもの発端だ。
「あんたの振り向く勢い強すぎやねん!一瞬、折れた?て思てんけど?!」
「せやからそれオレのせいちゃうやろ!オレも顔思っきしつかれて痛いっちゅーねん!.........けど、そない痛いんやったら病院行くか...?」
「!......ふふっ」
「な、なんや...急に笑いよって...」
「ごめ、あははっ......よし、今ので治った。もともと病院行く程ちゃうし。実里、悪戯してごめんな?」
「...もうええわ。こっちも大したことあらへんし」
「あ、せや!一発で治るおまじないしたる!ほら縮んで!」
「はぁ?今度はなに......っ!」
訝しげにしながらも言葉に従って身を屈めた実里に、少し背伸びをして頬に口付ける。
即効性の、治療法。
「へへ、効いたやろ?」
「...あほ!」
毒づくセリフとはアンバランスに真っ赤な顔が、言葉の代わりに肯定をしてくれた。