拍手文①


「牧君」
「どうし......?」
「やった!ひっかかった!」

子供っぽくはしゃぐ私と、状況がよく飲み込めていないらしい恋人。
普段は凛とした佇まいでいかにも強者って雰囲気を纏う彼が、キョトンとした表情で硬直している姿はかなりのギャップだ。

「今のは...?」
「えへへ、悪戯しちゃった」
「悪戯?」
「うん、悪戯」
「...どういう悪戯だったんだ?」
「えっ」

どう?どうって...え、知らない...?
これは想定外すぎる質問。頭をフル回転させて答えを探した。

「えっと、後ろを向いてる人...牧君の肩とかをポンポンってするでしょ?それで、振り向いた時に私がほっぺをつつく...って感じのやつ、なんだけど...」
「なるほど、それは悪戯なのか...」
「うん、一般的に......知らなかったんだ?」
「ああ、されたこともその光景を見たこともなかったからな」
「そんな人いたんだね...びっくり」
「すまない...だが、何故それが悪戯なんだ?」
「んー...意表をついてしてやられた!って感じになるから、とかかなぁ?あと、引っかかった時の顔ってかわいいし」
「かわいい...」

牧君も、とは心の中に留める。かわいかったのは本当だし、そんなこと言ったからって気を悪くすることもないだろうけれど、悪戯をしたばかりであまり揶揄いすぎるのも、ね。
...まあ悪戯そのものを知らなかったわけですが。

思い出すとまたニヤけてしまいそだから、下を向いて必死に誤魔化す。

「...そういえば、これを見てほしいんだ」
「え?なん...っ!」

牧君の長い指が唇にあてられ、言葉を続けるのを阻んだ。

「ああ、たしかに」
「...?」

クエスチョンマークが消えないままでいると、ようやく彼は唇から手を離し、そのまま頬に優しく触れる。なんだかくすぐったい。

「悪戯をしたくなる理由がよく分かった」
「え...?」
「キョトンとした...で良いのか?その表情を見たくなる、いつもとは違った愛らしさに惹かれるんだな」

優しく微笑む牧君を見ながら、悪戯されるのも悪くないかも...なんて、単純すぎる思考回路に行き着いた。
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