拍手文④
人生で初めて出来た恋人は、かなり肝が据わっているらしい。
だってそうでしょ?
見てるだけで痛くなるようなシーンや、画面に負けず劣らずのドロドロした人間関係、鬱々とした雰囲気が延々と続く映像を前にしても、綺麗な顔を一切曇らせないんだもん。なんなら、鑑賞のお供に用意したお菓子を摘んでたまに欠伸までしてるし。
「楓君、ホラー平気なんだ?これかなりエグいって評判なのに...すごいね」
「...たかが血だろ」
「いや、たかがではないと思う」
「高校で見慣れた」
「そっか、見慣れて......え、この惨状見て微動だにしないレベルのことを?!」
恐ろしすぎる事実の発覚である。
一体どんなどんな学校なの?修羅しかいないの?よく五体満足で卒業出来たね?
「な、なんかごめん、私がホラー見たがるせいで...次見る時はもっと緩めの探しとくね」
「いーけど、別に」
「あ、なんか希望ある?こんなの見たい、とか」
「...特に」
「逆にこれは無理とかもあれば...ほら、ピエロとか苦手な人多いし」
まあ正直、彼がピエロを恐れるとは思えない。
とは言え、万が一ってこともある。グロテスクや重苦しい雰囲気が平気でも、ホラーあるあるのここがダメ、とかはあるかもだし。
「...動物」
「え?」
「動物がひでーめに遭うのは、あんま...猫とか...」
鑑賞中は変わらなかった表情が、少し曇ったように見えるんだけど......え、目の錯覚じゃないよね?
「えと、ちなみにちょっと怪我するくらいとかは...?」
「...それも」
あ、やっぱさっきの錯覚じゃないな、これ。
「わ、分かった...!動物が出るにしても一切傷つかないのにするね...!」
「...さんきゅ」
人生で初めて出来た恋人は、どうやら肝が据わっている反面、とても優しくて繊細らしい。