拍手文③


今、人生最大とも言えるピンチに追い込まれている。

教室の外へ出ようとする私の前...正確には扉の取手に立ち憚る、大嫌いな虫のせいで。

「...動かないでよ、絶対動かないでよ」

言っておくがこれはフリじゃない、独り言だ。
でも、動いたら一族根絶やしにしてやる、くらいの強い意志を込めている。

え?もう片方の扉から出ろ?残念、立て付け悪くて絶賛使用禁止!出来たらとっくにやってる!
廊下側の窓?だから!いつ飛んでくるかも分からないヤツに近づけるわけないって!

(こんな時に限って誰もいない...あーあ、今夜は学校でお泊まりかな、はは...)

なんて、諦めと冗談半分に考えている中、突然扉が開いた。

こんな状況で、ヤツから私の意識を反らせる人なんて一人しかいない。

「ふ、深津...!」
「...なにしてるピョン」
「む、虫が!」

その単語と私の視線の先を見て、彼は全てを理解したらしく、未だ取手に引っ付いたままの敵を持っていたプリントへ移動させ、窓の外へ放り出した。

(私の恋人様頼れる男すぎ...知ってたけど!)

「か、神様仏様深津様...!」
「通れピョン」
「ありがとう!危うく学校で一夜明かすとこだったよー!」
「やめろピョン」
「もしくはそこの窓から飛び降りることも考えてたよ、一か八かで」
「そんなデッドオアアライブ試そうとするなピョン。ここ3階ピョン」
「うん、だから最後の切り札かなって」
「最後と言うより最期になるピョン」
「えへ」
「とにかく、危ないことはするなピョン。考えるのもなるべく控えろピョン」
「はーい」

(なんやかんや優しい...好き...!)

ただでさえベタ惚れ状態なのに、窮地を救われて優しさまで見せられたら、好きが加速するのは仕方あるまい。
それに、本来なら部活中のはず。教室に戻る用事があったのは偶然、つまり運命...!

「アホなこと考えてないで早く帰れピョン。暗くなるピョン」
「うん!」

ヒーローみたいな私の恋人、今日もあなたが大好きです!
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