拍手文③


晴れた休日の昼下がり、なにか素敵なことが起こりそうな...

「ぎゃー!!!」

...ことはなさそうだ。

「...栄治うるさい!」
「わー!デカい声出すなって!」
「あんたのがデカいでしょうが!」
「わ、悪い......って、それどころじゃねーんだよ!」

大きな身体を縮こませ、ゆっくりとこちらへ後退りの形でやってくる恋人。
その視線の先には、害虫の王と呼ばれる生物。間抜けな動きの理由はこれだ。

「もう、なんで退治出来ないのに真っ先に見つけちゃうかな」
「お、オレに言うなよ、こっちだって被害者だろ...」
「そうだけどさぁ...ほら、雑誌かなんか取って」
「お願いします!」
「やかましい」





「悪い、助かった」
「今に始まったことじゃないから」
「うっ...」
「別に責めてるわけじゃないよ。慣れないのは見る機会が少ないってことでもあるし」

そもそも、慣れる慣れない以前に大抵の人間ならあの生物に対し、生理的嫌悪を抱くだろう。

「...でもさ、私がいない時に出たらどうすんの?」
「え、それはないだろ」
「えっ」

え、なに?ヤツらの出没原因私なの?
...流石に傷つくんですけど。

「...ちょっと、それだと私のせいでヤツらが出るみたいじゃないの!」
「あ、いや、そうじゃなくて...」
「じゃあなんなのよ」
「その、いねぇってとこを否定したつもりだったんだけど」
「...は?」
「だってずっと一緒にいるっつったし...」
「...!」

そういえば、付き合うことになったあの日、そう宣言してたっけ。

「...いない時って、そういう意味じゃないんだけど」
「え、あれ?違ったの...か?」

良くも悪くも素直すぎるこの人よりも、毎度絆されてしまう自分の方が余程単純だと思い知らされる。

「違う......けど、それで良いや」

晴れた休日の昼下がり、素敵なことが起こりました。
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