拍手文③


部屋の前で体育座りに俯くなんて、まるで少女漫画のワンシーンみたい。

まあ実際は、居てはいけないアレと遭遇し、退治することも見張ることも出来ず、扉越しにその脅威に怯えているだけなのだけど。
一人の時に限って対処しきれない事態に遭遇するの、なんで?

(こんな時実里がおったら...)

恋人とは言え、都合の良い時だけ頼りにしているみたいで少々気は引けるが、それでもその事実は変えられない。
お使いなんて頼むんじゃなかった。

...と、一時間前の自分を激しく責めていた時。

「帰ったでー」

玄関の扉が開き、聞き慣れた声が耳に入った。

「み、実里ー!」

待ち侘びた救世主の帰還。
今ならゲームの村人達の気持ちがよく分かる。

「うおっ!なんや急に...頭打ったんか?」
「ちゃうけどもうそれでええわ!とにかく帰ってきてくれて良かった、ホンマ良かった!」
「はぁ?」
「あっち!あっちの部屋にヤツが、ヤツが...!」
「ヤツってゴ「それ以上は言うたらあかん」...おう...」

名前を言ったところでなにかが起こるわけじゃない。
でも、なんか、とにかく嫌。





「片してきたわ」
「ほ、ホンマ...?」
「おー、証拠やったらこの袋ん中や。見るか?」
「それは断固拒否するけど、やっつけてくれたんはホンマにありがとう!」
「あんくらい楽勝や。ま、思ったよか時間かかったけどな」

得意げに笑って見せる実里に胸がときめくのは、愛情なのか尊敬なのか...どちらでも構わない、と言うか多分、両方。

「あかん、後光さして見えるわ...」
「はっはっはっ!せやろ、しっかり崇めとけや」

普段ならこの辺りでツッコミを入れて、軽いじゃれあい(と言う名のケンカ)に発展するところだが、今日ばかりはひたすら敬服である。
5/7ページ
スキ