拍手文①


「...すごい」

思わずこぼした感嘆の声。
それを向けた対象は恋人.........の頬である。

「彰君のほっぺ、やわらかぁい...」

つい今しがた、私は彼にある悪戯をした。
振り向かせたい方の肩を叩き、相手がこちらを向いたタイミングで頬をつつく。大抵の人は経験したことがあろうこれを実践し、見事成功。

しかし、成功した喜びよりも衝撃を受けたのは、彼の頬が放つ魅力。ふにふにと柔らかいだけでなく、適度な弾力を持つ絶妙なバランス。
別にフェチではないけれど、完全に虜になってしまった。

「はは、そんなに気に入った?」
「うん...今まで知らなかったことが悔やまれるよ」
「そこまで?」
「だって、彰君って余計な脂肪とかないから...」

スポーツをやっているからでもあるが、筋肉こそあれど脂肪とは縁遠そうなタイプ。もちろん頬にも筋肉は存在するし、上質な筋肉は柔らかいとも聞くから、今好き放題しているのはそっちかもしれない。

うん、まあどっちでも良いか。

「魅惑のほっぺだね」
「初めて言われたよ」
「本当に?」
「うん。野郎の顔なんて好んで触る人なんかいないからね」
「そっかぁ...こんなに気持ちいいのに」
「ありがと。でも、そろそろ修了しない?」
「えー...」
「あからさまに不服そうだなぁ」
「もう少し堪能したい...!」

己の欲望に忠実すぎる発言をする私に、彼は笑みを浮かべたまま返す。

「うーん、そうさせてあげたいのはやまやまなんだけど...」
「けど?」
「変な気分になりそうだから」
「...!」
「...やめるんだ?」
「や、やりすぎかなぁって...」
「ふーん?あ、そうだ。お代もらわないと」
「...お、お代?」
「そ、お代。と言うわけで、失礼」

大きな手に包み込まれた両頬。器用に動かされる長い指に、初めのうちはくすぐったさと心地良さを感じていたものの、次第に別の感情が芽生えてきた。

触れた肌から体温の上昇を感じたのか、それとも計算内だったのかは分からないけれど、私が口を開く前に彼の手が離れていく。

「また今度、ね」
「...うん」

呆けそうになる頭で、彼の言った言葉の意味を身をもって理解した。
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