拍手文③
人生、様々なピンチに陥る場面があるだろう。勉強だったり、仕事だったり、人間関係だったり...とにかく、困難はそこらじゅうに転がっているのだ。
私の目の前にも、今それがある。
(誰よ窓開けっぱなしにしたのは...)
開いた窓から侵入したらしい、大嫌いな虫。
百歩譲って、教室内にいるだけなら私も逃げるくらいで済んだだろう。生き物だし、そこは仕方ない。
でも!
(よりによってなんで私の机の上に...!)
これは見過ごせない。
だって、机の中にまで入られたら...想像するだけで悪寒が走る。
(もう、最悪......ん?)
ドン底にまで気分が沈んだその時、廊下の窓に人影が映った。
これはチャンス、なりふりなど構っていられない。
「ど、どなたか!そこの!廊下歩いてるそこのお方!助けてください!」
「うわ!」
ガラッと開けた窓から身を乗り出し、救世主となる(かもしれない)人物の腕を取る。
「なにしてんだ、お前...」
なんという奇跡、救世主(仮)は愛しの恋人。
「健司...!助けて!お願い!」
「どうした?そんな切羽詰まって」
「私の机に!虫が!いる!」
「は?...ああ、あれか。ちょっと待ってろ」
私と机を交互に見て状況を把握した彼は、教室へ入り素早い動きでヤツを回収、撤去、外へと解放したのだ。
「終わったぞ」
「助かったぁ...ありがとう!」
「どういたしまして。にしても、相変わらず虫ダメなんだな」
「怖いもん」
「ははっ」
「ちょっと!」
「あー悪い。ほーら、かわいいかわいい」
「ぎゃっ!やーめーてー!」
頭を撫でる手つきは少し乱暴だけど、おかげで強張っていた気持ちが解れていく。
(こういうとこが好きなんだよなぁ...)
「...健司、ありがとう」
「おー」
綺麗さっぱり消え去った絶望の代わりに、幸せで満たされていく心。
やっぱり、私の恋人は救世主で間違いない。