拍手文③
「やばいやばいやばいって!ねぇ!寿君!」
「デケー声出すな!」
私と恋人の視線の先にいるのは、人々から忌み嫌われるあの生物。
今、絶賛大ピンチ。
「なんでヤツがいるの!?ねぇなんで!?」
「オレに聞くな!たまたま上見たらいたんだよ!」
「退治出来ないのにどうして上見ちゃうの?!」
「生きてたら上くらい見るだろ!」
「人生上向いてかなきゃだもんね!でも今回は別だから!」
「知らねぇよ!」
「虫嫌いな人はふと見上げたりしちゃダメって習ったでしょ!」
「習ってねぇよ!逆にお前はなんで知ってんだよ!」
「私も虫嫌いだから!」
「じゃあオレだけのせいじゃねぇじゃねーか!」
「良い?今は歪みあってる場合じゃないの、力を合わせなきゃ...!」
「お前がそれ言うのか?」
「今は!目の前の敵に!集中!」
「クソッ...腑に落ちねぇが言ってることはもっともだ...!」
「よし、心がひとつになったとこで...あっ」
飛ん......
「伏せろ!」
「え」
*
*
*
「...無事か」
「...なんとか」
開いた窓からヤツが外へ飛び出た直後、寿君が素早い動きで窓を閉めたことにより無事訪れた平穏。
「その、悪かったな...急に頭押さえちまって」
「や、むしろ助かったし...ヤツも追い出せたし......ところでさ」
「おう」
「アクション映画のワンシーンみたいだったね、さっきの」
「言うな」
「...ふっふふ、あははは!」
「おい!」
「だ、だって...あっははは!」
「笑いすぎだろ...」
「ご、ごめんって、はは......はー、笑った」
「ったく......んなことより、もう二度とヤツが現れねぇようにしねぇとな」
「だね」
同じターゲットに驚いて、怯えて、最後は笑って。
頼り甲斐がある、なんて言い切ることは出来ないけれど、今日も我が家は平和です。