拍手文②
「烈、そこどいて」
「断る」
「どーいーてー!」
「断る言うたやろ」
コタツに入ったまま、こちらを一瞥することもなく言い放つこの男は、一応恋人である。
「うちも入りたいんやけど!」
「入ったらええやろ。そっち空いとんのやから」
「ここやとテレビ見えへんやん!DVD見たいのに!」
「早いもん勝ちや、諦め」
本来ならここで言い返すのだが、そうも出来ない理由があった。
それは、コタツを出すにあたって設けたルール。
①コタツで寝ない
②やらなきゃいけないことはやる
③ポジションは早い者勝ち
今回、この3番目が該当するわけだ。
「悔しい...」
「ポジション争いでオレに勝てるて思わんことやな」
「もー...ホンマそのコタツへの執着心なんなん?」
「こんなもんやろ、みんな」
「んなわけないやろ!」
烈のこのコタツへの熱意を、最近は風林火山のようだと思い始めている。
コタツに入る動きは恐ろしく速いし、入ったら入ったで静かすぎるし、ベストポジションは確実に侵略されるし、そこから絶対動かない。
「そないここ座りたいんか?」
「...!替わってくれるん?」
「それはない」
「はー?!なんやねんそ「けど」...うん?」
「ここがええんやったら勝手に入れ。オレはこの場所譲る気あらへん」
それはつまり、同じ場所へ一緒に座ろう...と言うことだろうか。
「...ええの?」
「オレも鬼ちゃうしな。ちょっと狭いんは我慢したる」
「烈...!恩に着るわ!」
傍から見れば、こんなことくらいでと思われるかもしれない。
でも、寛ぎタイムの邪魔をされるのが嫌いな彼が、わざわざ自分の確保したスペースに人を招くなんて貴重すぎる。所謂、デレだ。
コタツに運命が委ねられている感は否めないけれど、根底にあるのは当然彼の意志。
「お邪魔しまーす」
DVDをセットしてリモコンを持ち、彼が空けてくれたスペースへいそいそと入り込む。
背中に温もりを感じながら、この幸せがたくさん続きますように...と強く強く願った。