拍手文②
冬になると現れる、非常に危険なものがある。
その名も『コタツ』。
人を堕落へと導くこの魔神具の危険度は、一度体験したことのある者なら知っているだろうが、そうと分かっていても我々人間は無抵抗にならざるを得ない。
更にもう一つ厄介なことがある。仮に自分自身がコタツの魔力に抗えたとしても、周りの人間までそうとはいかないのだ。
「風邪ひくよ、楓君」
「んー...」
こうして気の抜けた返事をする恋人も、その抗えないうちの一人。
最初こそ家に招く口実が出来て喜んだものの、すぐに後悔することになった。
バスケ以外の趣味が寝ることと公言している彼に、睡魔を誘発させるコタツは相性最悪。いや、ある意味彼からすると最高のパートナーかもしれないが。
(そりゃ前より家来る頻度は高くなったし、寝顔はかわいいしかっこいいけどさ...)
小さく溜息を吐き、スヤスヤと寝息を立てる恋人を眺める。コタツのテーブル部分にのる綺麗な顔と、彼の身体にはアンバランスな造りのそれに身を縮こませている姿はもう何度も見てきた。
結局、その度に胸がキュンとなってしまうのだから我ながら単純。
「...なに笑ってんだ?」
「わっ?!びっくりした...起きたの?」
「まだ眠い」
「えぇ...うーん、寝ても良いんだけどさ、ベッドにしなよ。ちょっと狭いと思うけど、コタツだと風邪ひいちゃうかもだし」
「...いい。あと、枕」
「めっちゃ本格的に寝る気だね?......もう、取ってくるから待って「違う」...え?」
「膝」
「膝?」
「そこ」
「...?」
「寝る」
「う、うん?」
「...枕」
「......あ、膝枕のこと?」
導き出した答えに、楓君がコクリと頷く。
「あーはいはい、なるほど膝枕.........膝枕?!」
「早く」
「えっ...えっ?」
「ねみぃ...」
「...ああもう、本当に風邪ひいちゃうし、私も寒いからちょっとだけだよ」
「ん」
返事のあと数秒もしないうちに再び眠り始めた彼を見つめながら、いっそ二人揃って風邪をひいてしまおうか...なんて、邪な思考が頭を過ぎった。
魔神具コタツは、やはり人をダメにする。