拍手文①


「っだあああ!クソ!またやられた!」

穏やかとは正反対とも言える様子で声を荒げるのは、恋人の寿。
どうして彼がこんな状態なのかと言うと、簡単な悪戯に引っかかったから。

「あはは、なんでいっつも同じ手にやられちゃうかなぁ」

彼がこの悪戯を受けるのは、実に14回目。
...さすがにやられすぎじゃない?

性格的にわざと引っかかるなんてことはないし、やはり素直な人だと思う。まあ、そのおかげで私も毎回新鮮な気持ちで悪戯成功を喜べるのだけど。

「忘れた頃にやってくるからだろ...」
「覚えてる時にやったら意味ないもーん」
「それもそう...いや、やんなよ!」
「寿の反応おもしろいから、つい...あとさ、よく考えたら完全には忘れてないでしょ?」
「は?な、なんでそう思うんだよ」
「え、だって...たまに肩叩いた方の反対側に振り向くし。あれって裏をかこうとしてるんでしょ?」

彼なりにこちらの行動を読んで対策を練っているのは知っている。
でも、それが出来るのは私も一緒なわけで。彼には少々申し訳ないが、反対を向うとフェイクをかけようと、手に取るように分かってしまうのだ。

どうやら指摘したことは図星だったようで、なにか言いたそうにしているものの、黙りこくっている。
うん、そんな顔してもかわいいだけだよ。

「ふふふ...」
「な、なんだよ」
「ごめん、だって...かわいいんだもん。寿の態度」
「嬉しくねぇよ」
「普段がかっこいいからギャップでかわいいってことだよ、ダーリン」
「だっ...?!」
「ふふ、これからも頑張って。いつか攻略出来ると良いね」
「...ぜってー出し抜いてやるからな!」

こんな関係をこの先も一緒に築いていきたい。その意味を込めたセリフだと、彼は理解しているだろうか。
...いや、そうでなくても構わない。

「うん、楽しみにしてる」

今、目の前にある幸せを失くしてしまわないよう、力いっぱい抱きしめた。
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