記念日とのことで。


夜の学校って、ちょっと気味が悪い。

(てか暗くない?節電にしても暗すぎるでしょ、足元も危ないし...ちょっと怖いんだよなぁ)

お化けが怖いとかじゃなくても好きな人は多くないだろう。特にこんな、静まり返って非常口の灯りしか見えない中じゃ、人と出くわすだけでも心臓が飛び出してしまうんじゃ......

「なぁ」
「わあああ!!?!!!」

あ、出たかも、今。

(...じゃなくて、あれ?この声って)

「.........る、流川君?」
「...うす」

(なんでここに...?)

「お......お疲れ様です」
「...ども」
「えーっと...... あの、とりあえず...手を貸していただいても?」

無言で差し出された手を取り、驚きで脱力した脚を立たせる。
恥?そんなものは捨てました。

「ありがと、ご迷惑をおかけしまして...」
「...別に」
「それで流川君は......あ、また忘れ物?」
「...まあ」
「一緒に行こうか?」
「いい。もう見つけた」
「そっかそっか。えっお、部活はもう終わった...よね、時間的に」
「ん」

短い返事を済ませてこちらをジッと見つめる流川君。
正直、そんな綺麗な顔で見られ続けるのは心臓がもたない。本音としては見てたいけど。

...いやいや、そうじゃなくて!
これはあれだ。彼の中ではまだ話が終了していないってことだ、きっと。

(でもなにを.........うーん......)

「.........一緒に帰ります?」

再び無言で頷く様子を見るに、問いかけは正しかったようだ。
どうやら、諦め悪く居残り続けたのが功を奏したらしい。予想外ではあるけれど、願ってもない好展開。

(あーどうしよ、顔ニヤける...!)

たまたま居合わせた恋人と、たまたま一緒に帰れることになった、たったそれだけ。偶然なのか必然なのか、本当のところは定かじゃない。
でも、特別な日に好きな人と過ごす時間が増えたのは、変わらない事実。

好きな人と付き合って一ヶ月、記念日に湧き立つ恋人達の気持ちが分かった気がする。
同時に、早くも次の記念日に向けて止まっていた思考がフル回転し始めた。
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