記念日とのことで。


一ヶ月前、人生で初めての恋人が出来た。
ついてに言うと、初めて好きになって初めて告白した相手でもある。

「流川君が好きです、もしよければ付き合ってくれませんか!」

同じクラスの流川楓君。
ルックスの良さに加え、バスケ部のエースである彼は親衛隊が出来る程かっこよくてモテる。勉強と授業態度はあんまり...いや、全然だけど。

そんな彼にまんまと惚れてしまった私は、どうせ振られるなら傷の浅いうちにしてしまおうと、恋心を自覚して一週間で行動を起こした。正確には、絶好のチャンスが訪れたのがたまたま一週間目だっただけ。
委員会やらなんやらで遅くまで残っていたあの日、忘れ物でもしたのか教室へ戻ってきた流川君を見て、今しかないと勢いに任せた告白。ムードもなにもあったもんじゃない。

しかし、自分のその行動力よりももっと驚いたのは彼の返答だった。

「...いーけど」

まさかのOK。

「うん、そうだよね私.........え、いいの?!」
「...ん」
「本当に?!」
「ん」
「部活で疲れてて正常な判断出来ないとかじゃなくて?!」
「ちげー」
「なら私の知らない新手の断り方「しつこい」...あ、ごめん」

こちとら玉砕200%の覚悟で告白してるんだから、少しくらいしつこくても許してほしいものだ。
なんて思いながら、徐々に押し寄せる喜びと直面した現実に、その場で力が抜けてしまったのが懐かしい。そんな中でもしっかり連絡先の交換を遂げたのだから、我ながらちゃっかりしてる。

そんなこんなで無事(?)お付き合いがスタートしたわけだが、正直恋人らしいことは特になにもしていない。付き合う前より会話する頻度は増したし、メッセージのやり取りだってするけど、逆に言えばそれくらいの変化だけ。

(...まあ、付き合えるだけで充分嬉しいけど)

自分の性格故か、相手が高嶺の存在すぎるからか、はたまた交際経験ゼロで比較対象がいなかったからのか。いずれにしても、現状には満足している......のだが、今日は私達が付き合い始めて一ヶ月。
所謂、記念日。

世の中にはこういった記念日を大事にするタイプと、そうでないタイプがいる。本音を言うと自分達は後者に属するが、完全に無関心なわけじゃない。少なくとも私は。
だからと言ってなにかやりたいことがあるわけでもないし...とウダウダ考えている中も時間は経つ。
そして、放課後になった今もこうして悩んでいるわけだ。悪あがきのように居残り続けて、窓の外はすっかり陽が落ちている。

(まあいっか...)

興味がないわけじゃないが、思い浮かばない中で無理になにかする必要はない。関係が続けば記念日はまたやってくる。
誰もいなくなった教室でやっと答えを決め、帰り支度を整えて教室を後にした。
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