本日、日直当番。
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この学校に入って知った、中学までと違うことのひとつに『日直が一人』と言うのがある。
小学校から中学校までの9年間、二人一組が普通だった自分には少しだけ新鮮だったが、ただそれだけ。別に仕事が多いなんてこともないし。
ただ、ごく稀にアンラッキー日直デーが存在する。
たまたま避難訓練で点呼係に任命されたり、次が移動教室なのに前の授業が延長して粉まみれになりながら急いで黒板を消したり、あとは......
「日直さーん!悪いけどノート回収して持って来てくれる?先生ちょっと両手が塞がっちゃって...!」
「日直さん、これ配っておいてください」
「この問題は...今日の日直は......上田か、じゃあ上田の列順番に答えて」
こんな風に頼まれ事が重なりすぎたり、とかね。
と言うか、最後のは同じ列の人に恨まれるからやめてほしい、切実に。
なお、この職務多忙日は現在進行形であり、そのアンラッキーな人間が私である。
友人にでも手伝ってもらえば良いのだろうし、実際友人も声をかけてくれるのだが、そんな時に限って呼び出しなりなんなりの邪魔が入るこの現象、一体なんなの?
(まあ、別に良いんだけどさ...)
両手に抱えたノートを支え直してバランスをとる。
ちなみにこれは回収したものではない。今し方立ち寄った図書室(正確には準備室)にて受け取った、うちのクラスに返却されるものである。別にやる必要はなかったのだけど、仲の良い先生だからノリで引き受けたわけ。
が、やはり重い。たかがノートとは言え、数十人分もあると腕にかかる負担が違う。
(カゴくらい借りとけば良かったなぁ...)
「上田?」
再び雪崩れそうになるノートを揺すって整えていると、馴染みのある声に名前を呼ばれた。
「...松本?」
「それも日直の仕事か?」
「ううん。先生のとこ寄ったからついでにね」
「重いだろ?代わる」
優しくて実直な彼は、こんな風に困ってる時いつも気にかけてくれる。今までも何度かお世話になった。
...とは言え、自ら引き受けたものを他人様に丸投げするのは流石に良心が痛む。
しかし、一人では大変なのも事実。
結局、妥協案として半分引き受けてもらうことにした。
「ごめんね、手伝ってもらって」
「いや......今日は日直の仕事も多くて大変だったんじゃないか?」
「あー...うん、なんかすごい日直への集中攻めって感じの日」
「はは、なんだそれ」
穏やかな笑い声を聞きつつ、預けたノートに目をやる。
(...やっぱ私よりちょっと多く持ってくれてる......よね?)
あからさまな程ではないにしろ、なんとなくそうかもってくらいの僅かな差。
困っている人を見兼ねての優しさと、本人の意思を尊重しようとする律儀さがそのまま現れている気がした。
それが実に彼らしくて面白い。
「...ふふ」
「どうかしたか?」
「んー...この後も黒板消さなきゃなって」
「そっちも手が必要なら......ああ、いや...余計か?」
「そんなことないよ、助かるし嬉しい」
「...なら、良いんだけどな」
器用なんだか不器用なんだか分からない、そんな彼の隣を歩きながら思う。
今日はラッキー日直デーだ、と。