悪戯、成功?
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授業終わりの騒めきの中、私のやることはひとつ。
それは、片付けでも次の授業準備でもない。
「ま、つ、も、と!」
すぐ前の席に座る人物の名を態とらしく呼びながら肩を叩く。
すると、相手は当然振り返るわけで。
「ん?......って?!」
「やっぱり引っかかったー!」
人差し指を相手の頬に当てたまま、成功した悪戯を子どものように喜ぶ。
普段は身長差という物理的壁に邪魔をされ仕掛けることすら困難な為、こんな時しかチャンスがない。
まあ、タイミングさえ合えば確実に引っかかるだろうとは思っていたのだけど。
「びっくりした?」
「した、と言うかしてるんだが...」
「あはは、じゃあ大成功だ!」
「なんなんだ?これ」
「悪戯」
「いたずら...」
「そう。私もこないだ友達にされてさ、悔しくて」
「それを何故オレに」
「だって...松本は引っかかってくれそうだし、やっても怒らないでしょ?」
「なんだその信頼」
「え、怒ったの?」
「怒ってないけど...驚きはした、いろんな意味で」
「ふふ、それ込みで悪戯だよ」
「そうか......ところでオレはいつまでこの状態なんだ?」
「あ、ごめん」
指摘されてからようやく、突きっぱなしにしていた手を引っ込める。忘れていたわけじゃないけど、そのまま会話が続くものだから、つい。
でも、不快そうに顔を顰めるでもなく、こうして穏やかなままでいるところに、彼の優しさを再認識させられる。
(さすが松本だな、うん)
「一応ごめんね、びっくりさせちゃって」
「ああ、それはもう別に。それより上田」
「うん?」
「指痛くないか?」
「...指?」
「ああ。今の悪戯で痛めてないか?」
「平気だよ。てか痛いとしたら松本の方じゃない?」
「いや、爪が刺さったわけでもないから特には」
「ホント?ちょっとヒヤッとしちゃった」
「はは、終わってからじゃ遅いだろ」
「たしかに......あははっ」
全くの無反応だったから、勝手に大丈夫だろうと思っていたけれど、本人の口から聞いてホッとした。
そして、同時に思う。
悪戯を仕掛けられた側にも関わらず、相手のことを心配する優しさと気遣い。
やはり、松本稔と言う男は心が広すぎる。もはや心配になるレベルだ。
「...松本さ、変なのに引っかかんないよう気をつけなよ?」
「そんな深刻になる程か?少なくともしばらくはないだろ。引っかかったばっかだし」
「うーん、そういうことじゃないんだけど...まあいいや」
「?そうか」
天然気味な返しにより、会話の区切りが出来たところで聞こえてきた予鈴。
教室が変わらないとは言え、そろそろ次の授業の準備をしなければ...と、必要なものを入れ替えて机に並べていく。
「上田」
「え?な......っ!」
訊ねようとした言葉が引っ込み、驚きは声を呑み込む形で現れた。
目の前で、パンッ!...と、大きな手が一拍、音を響かせた。
それをやったのは、他でもない松本。
「驚いたか?」
「......ねこ、だまし?」
「同じやつは引っかからないだろうけど、やられっぱなしなのもな。悪い」
自分からやっておいて恥ずかしそうにはにかむ姿が普段の落ち着いた雰囲気を隠し、少し幼く感じさせた。
彼の目論見通り驚き固まってしまった私を再起動させたのは、タイミング良く鳴り始めた二度目のチャイム。もう前を向いてしまった松本の後ろ姿をぼんやり眺めながら、考えることは授業内容とは違うことだった。
(...やばい、なんか......ドキドキする)
速まった鼓動の原因は悪戯のせいか、それとも。