自分のものには名前を書きましょう
name change
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「清田」
「なんだ?」
「これ、清田のでしょ」
差し出したボールペンを見た彼は、瞬きを2回程すると、思い出したように声をあげた。
「あっ、悪い!サンキューな」
「どういたしまして」
「にしても、よくオレのって分かったな」
「前も落としたでしょ、覚えたよ」
そう、こんなありふれた文房具の持ち主を特定出来たのは、以前も同様のことがあったから。
「あーそういや...」
「そういうのはまだ分かりやすいから良いけど、人のと区別つかない物には目印つけるか名前書いときなよ」
「目印はまだしも名前はちょっと...ダサくね?」
「頻繁に落とす方が悪い」
「うっ...」
「ふふふ」
「あーもー...目印になるもんなんもねぇんだけど」
「ふむ......じゃあこれ、貸してあげるよ」
取り出したのは、ファンシーなキャラクター達が並ぶマスキングテープ。
ちなみにこれ、ガチャガチャの景品。今朝、登校時に見かけて衝動的に手に入れたもの。
「これに名前書きなよ」
「えぇ...」
「すぐ剥がせるんだし、直書きよりマシでしょ」
「小学生みてぇじゃん」
「我儘言うんじゃありません!」
おかしいな、どんどん母親みたいになってきてるぞ?
いつから私はこんな大きな子を持ったのか。全く記憶にございません。
「はぁ......あ、じゃあイニシャルは?」
「お、それなら」
「そうと決まればすぐやる!」
急かしても素直に聞いてくれるのは、親しい関係だからだと自惚れておこう。
“N.K” と書かれたマスキングテープをペタリとボールペンへ貼り付け、くるくると回す清田。
見ろ、と言わんばかりに目で訴えてくる様は、まるでボールを取ってきた犬みたい。何故かドヤ顔なせいで、余計にそう見える。
「出来たぞ」
「うん、よく出来ました。これなら落としても大丈夫だね」
「上田は?」
「え?」
「名前書いてんの?」
「私は落とすことそんなないもん。まあ万が一の為に失くして困るものや、大切なものにはつけてるけど」
「例えば?」
「んー、学校には持ってこないからなぁ」
「せっかく上田の分も書いたのに」
「いや、なんでなの」
「...なんとなく?」
気を遣ってくれてありがとうと言うべきなのか、人の物で遊ぶなと怒るべきなのか。
まあ、彼の性格からして完全な善意だし、今回は見逃してあげよう。ちょっと癒されたし。
「これ無駄にしちまったな...」
「良いよ、それくらい。けど、どうせなら使おうかなぁ...」
自分のイニシャルを記したテープを受け取り、なにに貼ろうかと頭を悩ます。
人には所持品に名前をと言ったものの、それらは選択肢から完全に除外。だって私はそんな失くさないし。
うーん、大切なもの、大切なもの......あっ、そうだ。
「清田、これあげる」
「えっ」
「ほら、”もの”って”者”とも書くでしょ。私にとっては清田もその対象。大切なお友達」
「...!な、なら、仕方ねぇな!」
「あ、粘着力なくなったら捨てて良いから」
「感動から急に現実に戻すなよ」
「ごめんごめん」
我ながら可愛げのないことを言ってる自覚はある。
だけど、こうやって予防線でも張っておかなきゃ、もしも拒絶されたらって怖いもん。こう見えて臆病だから。
(...前にも落としたからって、それだけで記憶してるわけないじゃん)
多分、彼にはストレートに伝えないとダメだろうけど、今はまだその勇気が足りない。
素直になれる日よ、早く私の元へ来い。
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