ただいま充電中
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(つっ......かれたぁ)
予期せぬトラブルに見舞われ、普段の何倍もの忙しさに追われた一日。肩は痛いし足は重い、ピリついた空気の中に置かれてメンタルの方もかなり疲弊した。
唯一の幸運はあまり残業せずに済んだことくらい。
効率的にも骨の為にも良いとは思えないヒールを力なく鳴らしながら、どうにか自宅マンションまで辿り着く。
エレベーターは近くの回で止まっていらしく、扉はすぐに開いてくれた。空っぽの箱には自分一人、辺りをパッと見渡しても、同乗者が来る気配はない。目的の階と閉扉ボタンを押しつつ、心の中でガッツポーズをした。
(エレベーターなかったら家入れなかったかも...あーもう、スーツも靴も投げ捨てたい...)
当然そんなことはしないけれど、安らげる場が近づけば近づく程、その気持ちは増していく。多分、余裕があまりないからだろうと、僅かに残っている理性で冷静に客観視した。
到着を知らせる音が鳴り、一拍置いて扉がゆっくりと動く。外へ出て疲れきった足に鞭を打つように歩みを早めてやっと自分の部屋が見えた。
歩きながら鞄を漁って取り出した鍵を差し込み開錠すると、ドアノブを下げる前に深呼吸。
(ふぅ.........よし)
「...ただいまぁ」
もうひとつ、これだけの疲労がある中でも幸せに思えることがある。
「おーおかえり」
それは、愛しい人の存在。
廊下の先のリビングから顔を覗かせ、迎えてくれるのは恋人の寿君。
(あー癒される...今日もかっこいいなぁ......朝も見たけど)
「寿君、今日早いんだね」
「たまたまな。奈緒子もそんな遅くねぇけど...相当忙しかったのか?」
「うん、クタクタだよ...」
「お疲れ」
「ん」
「明日休みだろ?ゆっくりしろよ」
「ありがとう」
「風呂かメシ、どっちにする...って、なんだよ?人の顔じっと見て」
「視覚から脳へ幸せエナジーチャージしてるの」
「なんだそれ」
「ふふ...」
寿君からすると冗談に聞こえるかもしれないけど、彼のおかげで本当に気力が回復していく。その辺のエナジードリンクなんかよりずっと効果的だし健康に良い。
「寿君はお風呂入ったの?」
「あー...まだ。疲れてんだろ?先入れよ」
「良いの?タイミング悪くなっちゃったね」
「んなこと気にすんな。さっさと入んなかったオレもオレだしな」
「もー...そういう優しいとこ本当沁みるんだけど!」
「良いことじゃねぇのか」
「良いことだよ!もう!」
「いや、なんでキレてんだよ」
「照れ隠し!」
「お、おう」
照れ隠しも嘘じゃないけど、ちょっとだけ本音は隠してたりする。
(ぎゅってしてほしいし、したいなぁ...)
でも、こんな形じゃ言えない。
彼に申し訳ないのもだけど、なにより私の理性が待ったをかける。多分、今ここで甘えたらお風呂はおろか着替えも放棄したくなる、そんな予感がするのだ。
「...じゃあ、先にお風呂いただくね」
(お風呂から出て、そんで寿君も入ったら今度こそ......っ?!)
自分に鞭を打ちなんとか意思をコントロールした直後、背中に訪れた温もり。
それを与えてくれる相手は、この空間に一人だけ。
「ひ、寿君?」
「...良いから、オレにも充電させろ」
気恥ずかしさが残る声でそう囁く彼に、自分の予感は外れたと思い知らされる。
(...お風呂も着替えもご飯も後片付けも、とっとと終わらせよ)
そしてその後、かっこよくてかわいい大好きな恋人との至福の時間を心ゆくまで堪能しよう...と、彼の腕の中で誓った。
