寒暖差の厳しい一日
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
悲しいような、さみしいような感情が混ざり合って無性に泣きたくなる時がある。
言うなればそう、センチメンタルってやつ。
厄介なことに発動条件はまちまで、どうするのが正解なのか自分でも分らない。
今だって一休みしようと座ったベンチの上でどうしようもない物悲しさに襲われている。
天気が良いってだけで散歩に来た少し前の私、悪い事は言わないから家で大人しくしてて。
ただでさえ秋は感傷的になりやすい季節、気候だってすぐ変わるんだから。
いつの間にか太陽は雲に隠れてしまったし、心地良かった風も身体を冷やすだけのものでしかない。
まばらに行き交う人をぼんやり眺めていると、一際背の高い人物が通りがかった。人の波を逸れ、何故か真っ直ぐこちらへ向かってくるシルエットにはなんとなく見覚えがある。
「ああやっぱり、上田さんだ」
「あ...」
「こんなとこで何してんの?」
「ゔっ...」
「えっ待ってちょっと待っ...」
急に喋り出したからなのか、それとも思っていた以上に深刻だったのか、あと一文字を聞き終わる前に私の涙腺は崩壊した。もう嗚咽混じりに肩を震わせ続けるしか術はない。
さて、偶然会った知人に声をかけただけで突然泣き出される不幸に見舞われた彼は仙道彰君、私のクラスメイト。
完全なとばっちりにも関わらず必死に慰めようとしてくれることから分かるように、運は悪いが面倒見の良い優しい人だ。
「落ち着いた?」
「...うん、急にごめん」
「いやいや、これくらい」
「本当ごめん...」
「もういいから、ね?良かったら話くらい聞くよ」
これ以上迷惑をかけるのはどうかと思った。
理由はないけど涙が出る、なんて言われたらますます困らせてしまうんじゃないか。
私なら泣き出された時点でびびってたし関わったこと悔やんでる。
迷った末、厚意に甘えさせてもらうことにした。
何故って正気じゃない時でないとこんなドン引き案件誰にも言えないから。醜態なら既に晒してるし。
「...と言うわけだから聞いてもらってなんだけど、仙道君に責任ないから気にしないでね」
「オレが引き金にはなったんだよね?」
「あのままでも同じだったよ、きっと。むしろ被害者だよ、自信持って」
「いや被害者に自信はいらないでしょ」
「...それもそうだね」
胸の内を吐露したからなのか軽い冗談を返せる余裕が持てた。
半ば自棄的だったけどこと結果オーライ。
そう、私はね。
余裕が出ると視野が広がる。
視野が広がると冷静になる。
「...引き止めた私が言うのもなんだけど、仙道君時間平気?用事とかあったんじゃない?」
「ああ、これから部活」
「ほんっとにごめん」
「謝んないで、どうせオレ遅刻常習犯だから」
「堂々と言うことじゃなくない?」
「家出た時点で遅刻確定してるし同じだよ」
「尚のことダメじゃない?」
「そんなことより、こんなとこ居たら風邪ひくよ。送ってあげるから帰ろう」
「いや、だから部活は?」
「いいからいいから」
「良くないでしょ」
「さっきまで泣いてた子を一人で帰すなんて出来ると思う?目だって冷やさないと明日ひどいことになるよ」
「...でも」
「もしオレを気遣うつもりで遠慮してんなら、素直に送らせてくれる方が有難いなぁ」
彼の言うことにも一理ある。
せいぜい今は赤くなっているだけの両目、あれだけ泣いた後のケアを怠ると瞼が腫れ上がってしまうだろう。明日は学校、サングラスで隠すなんてことも出来ない。
それにこうして押し問答をしている間にも時間は過ぎてしまう。この調子だと絶対折れてくれないだろうし、ここは同行してもらった方がお互いのためな気がする。
「...お願いします」
「よし、じゃあ行こーか」
ご丁寧に手を差し出して起立を促す姿がなんともサマになっている。
大人しくその手を取ると、足に力を入れて腰を浮かせた。
1/3ページ