私のヒーロー
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薄暗い廃屋のような場所、裸足にルームウェアで佇む自分、決して楽しいとは言えない周囲の空気。
これは夢なのだろうと、ぼんやり思う。何故って、ついさっき見た悪夢と似たような光景だから。
(またぁ...?もうやだ...早く覚めて...)
本来、夢を見ていると自覚しているなら自分の思うように事を運べるはず。
それなのに、視界に入るものは変わらず、覚める気配もない。むしろ焦りから恐怖が募る一方だ。
そして、それを助長させるかのように再び現れるゾンビ達。まあゾンビなのかも分からないけど、とにかくそれっぽい怖いなにかに恐怖は感じつつ、二度目故の適応力なのか、気づいた瞬間には走り出していた。
走って走って、それでも追いかけてくる怖いヤツ。
結局疲れ果てて、また捕まって、ああもうダメだ...と諦めてギュッと目を瞑る。
(助けて......助けて、彰君...!)
そんな悲痛な心の叫びをあげた直後、訪れたのは痛みではなかった。
誰かに頭を撫でられている。理解するや否や、今度は手を引かれ、また走り出していた。
一人で走っていた時はあんなに疲れていたのに、さっきよりもずっと速く走っている今は、ちっとも疲れない。
少しした先でやっと脚が止まりようやく相手の顔が見えた。
「あ、きら...くん...」
そこにいたのは、私の一番大好きな人。
「もう大丈夫だよ、奈緒子ちゃん」
彼はニコッと笑って頭を撫でながら優しい声でそう言った。
「あれ、出張...あ、夢...?」
混乱しながら話しかける私に、彼は微笑むだけ。
クエスチョンマークを浮かべていると、突然手が伸びてきて身体が宙に浮いた。
「...?!!」
驚いて声が出ない私を抱えたまま、彼は軽快な足取りで進み始める。
いくら体格の良い彼でも、所謂片手抱っこと呼ばれるその姿勢で走るなんてキツイだろうに、スピードは衰えない。そのうえ乗り心地も、揺れを一切感じない安定したもので、夢の中である実感がわいた。
落ちるかも、としがみついたままだった手から少しずつ力が抜けていく。気づけば周りの景色も、ジメジメした薄暗いものから晴れやかで淡いものへと変わっていた。
(綺麗...あったかいし、楽しくて、素敵...!こういう夢ならずっと見てたいなぁ...)
夢だから時間が経てば覚めてしまう。
でも夢だから、せめ覚めるまではこのまま幸せな気持ちでいたい。
そう願ってもう一度、彰君に回した手にしっかりと力を込めた。