私のヒーロー
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慌ただしかった鼓動が徐々に落ち着きを取り戻していくのが分かる。
(...効果抜群だなぁ)
思いついたのは偶然だった。
季節の変わり目で温度管理が難しくなってきたある日のこと。
半袖一枚では流石に肌寒く、他の服を出そうかと考えているところへ目に入ったのがこれだった。彰君が高校時代に部活で使用していたもので、部屋着代わりにも時々使っていたらしい。
ソファーにかけられたままのそれを見て、ちょっとくらい拝借しても...と魔が差してしまった。
自分にはかなりオーバーサイズのジャージを羽織ってみると、まるで彼に抱きしめられているかのような感覚。少し鳥肌が立っていた身体は、あっという間にポカポカと暖まった。
でも、そんな恥ずかしいことを本人に言えるわけがない。ドキドキする気持ちを抑えつつハンガーへ掛けて仕舞い、その日は何事もなかったかのように振る舞った。
あまり物事を気にしない性格の彼はジャージが消えたことには気づいたものの、私が納めたと話すと「手間かけさせてごめん。わざわざありがとう」と穏やかに言い、それ以上の追求はなし。
罪悪感は若干あったが、バレなくてホッとした。
これ以来、彼が傍にいない時にこっそり持ち出しては抱きしめたり羽織ったり...と好き放題している。
ちょっと悲しいことがあった日、落ち込むことがあった日、今日みたいに夢見が悪かった日。甘えたいけど甘えられない時に頼る、心の拠り所だ。
正直、我ながら気持ち悪いことしてるんじゃ...とも思うけれど、別に迷惑はかけていないからか!と開き直っているのも事実。
(こんなことくらいで嫌われるとかないと思うけど...多分)
同じ柔軟剤を使っているのに、漂う香りは自分とどこか違う。
それはきっと、彼自身の纏う特別な香り。
(私の、一番好きな香り...)
ウトウトする頭で再びベッドへ戻ると、ジャージを掛けるようにして横になった。さっきまであんなに邪魔をしていた理性はすっかり大人しくなり、訪れる眠気を素直に受け入れようとしている。
やはり、これは魔法のアイテムかもしれない。
(明日...休みだけど、彰君が帰るまでに...戻しておけば、大丈夫...)
休日でも、彼が帰ってくるまでには起きられる。
なんて考えながら、今度こそ意識を手放した。