怠惰に勝るもの
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「おー剥がれてきた」
「おお、早い...」
「超強力でも所詮はテープだな」
「今のセリフ悪役っぽいね」
「ははっ、そう?」
「うん。他所では名を馳せてた強キャラが下剋上してきたのを一蹴する系」
「細かいなぁ」
「もしくは四天王最弱がやられた時にその様子を水晶から見てたボスの最側近みたい」
「それ、さっきより弱くなってない?」
「あはは、ごめんね。......ところで仙道君」
「ん?なに?」
「休憩中って言ってたけど、まだ平気なの?」
「平気平気」
「ふーん?長めの休憩とるんだね、バスケ部って」
「そうでもないよ。ただオレは時間におおらかな人間だから」
「それってルーズなんじゃ...」
「上田さんそれ、監督と同じこと言ってる」
「えっ」
「はははっ」
静かな廊下の中で、水の流れる音と笑い声が小さく響く。
自分のせいで迷惑をかけてしまっている手前、本人に面と向かって言うのは気が引けるけれど、こんな時間の過ごし方も良いものだ。
「...あ、とれたとれた」
「本当?」
「うん、バッチリ。ほら」
そう言って差し出された手の中には、完全にへたってしまったガムテープだったもの。
所詮はテープ。彼の言葉を思い出し、たしかに...と笑いが込み上げる。
「ね?切らなくても良かっただろ?」
「うん...ありがとう、仙道君」
「どういたしまして。せっかく綺麗に伸ばしてあるんだから、早まんないでね」
「......善処してみる」
「出た、その間。よくそれでそのヘアスタイル維持出来るね?洗うのも大変そうなのに」
「うん。なるべく短くしてたんだけど、年々短くなるもんだから...そのうち坊主になるんじゃないかって家族に危惧されちゃって。髪だけは伸ばせって」
「予想外すぎる回答だなぁ...」
「さすがにしないよ?坊主は坊主で維持大変そうだもん」
「ああそれは言えてる。そういば一年の時は肩くらいだったよね」
「うん、言われたの中三の冬だったから。高校生に向けて!って応援された」
「愉快なご家族だね」
「でしょ?...まあ、寝癖があっても誤魔化せるから総合的には伸ばす方がラクかなって」
「はは、やっぱそれがメインか...あ、そうだこれ」
「...タオル?」
「使って。部分的だけど濡れてるから」
「じゃあ、ありがたくお借りするね」
「あれ、意外と素直に受け取ってくれるんだ」
「押し問答する方が面倒かなって...タオルは濡らすためにあるようなものだし」
「なるほど、上田さんらしい」
時間におおらかと言っていたが、それは彼の穏やかな気性からくるものなのかもしれない。
面倒な分せっかちなところがある自分と、反対だけど似てるような気がする。
「本当にありがとね」
「こちらこそ、楽しい時間をどうも」
「それじゃ、部活頑張って」
「ありがとう。......そうだ、上田さん」
「うん、な...」
なに?と続けたつもりの言葉は、声にならないまま喉の奥でつかえてしまった。
視界いっぱいに広がったのは、仙道君の整った綺麗な顔。
呼吸を忘れる程、圧倒されてしまう。
「短いのも似合ってたけど、今の上田さんもすごく好きだよ」
耳元でそれだけ告げると、まるでダメ押しのように微笑みかけ、くるりと背を向けて行ってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、少しずつ整理されていく頭の中。段々熱くなっていく顔と、速く大きく脈打つ心臓。
とりあえず、次もし同じようなことに遭っても髪は切らないようにしようと、密かに決めた。