仙道くんと流川くん
『じゃ、私はこの辺にいるから......なにもないと思うけど、一応見てるし安心して』
「(はい)」
『...ホントに順応早いよね、仙道君て』
最早苦笑いもなくジト目なレイコさん。
そんな彼女とは対照的に、まるで童心のような気分だった。原理や理屈は追々として、不思議な力、というのはいくつになっても惹かれるものらしい。
けど、この仏頂面でクールな男は、今抱く感情とは縁遠そうだな。
「よう、流川」
「...よう」
極力自然な声かけ......のつもりだったが、どうやら警戒を解くには不十分なようで、先程向けられた不審な視線は消えていない。
(そりゃそーだよな)
顔見知りと目が合ったかと思った途端、その相手が笑顔で口を動かし自分から目を逸らさない状況。
流川からすれば...いや、流川でなくとも奇妙すぎる光景だ。口元の動きは控えめにしたつもりだったけど意味なかったな、多分。
「...なんでお前がここにいんだ」
あ、こいつ過ぎたこと気に留めない性格なんだな、良かった。
「近所...って程でもねーけど、散歩してたら偶然な」
「そーかよ」
「お前は?こっちの方だったか?」
「別に。いつものとこが使えねーから代わりに来ただけだ」
「へぇ」
会話が途切れ、二人......とレイコさんしか居ない公園は、再び風や鳥といった自然が生み出す音だけに包まれる。
「...意外だな」
それが、最初に覚えた違和感を更に強くさせた。
「...なにがだ」
「お前がなにも言ってこないのが、だよ」
この男のことはまだ、一試合の中でしか知らない。目を張るプレーはもちろん、落ち着いた見た目や静かな口調とは反対に、闘争心剥き出しで好戦的な性格が印象的だった。それと、子供っぽいとこも。
(...ま、ほんのちょっと前まで中学生だったもんな)
つまり、今ここでオレに勝負を挑んでこないのが、新たに抱いた違和感。
あの時のあいつなら、勝負しろ、と凄んできていたはず。一応こっちもそのつもりで、どう返そうかと思考を巡らせていたくらいだ。
当然、たまたまその気じゃないだけ、というのも否めない。相手も人間、その日の気分や調子もある。あまり一般的ではないだろうけど、オレ自身もそれに当てはまるタイプだ。
...なのに。
「(...レイコさん、ちょっと)」
なにか意味のあるような、そんな予感がした。