仙道くんと流川くん
「さて、と...」
『あれ、出かけるの?』
「ええ、散歩でもしようかと。天気も良いし」
『部活は?』
「今日はオフです」
『...本当に?』
「本当ですって。ほら、連絡の鬼電も全然鳴ってないでしょ?」
『ああ、たしかに......よし、じゃあ行こっか、散歩』
マイペースさに痺れを切らした部活仲間が催促や位置確認のコール音を鳴らし、彼女がその様子を目撃する...と言うのを、もう何度も経験している。故に、スマホが音を立てないことが、己の発言を決定付けるなによりの証拠になるのだ。
結果としてルーズさを恥ずかしげもなく出しただけだが、おかげで彼女は納得したようだし結果オーライ。
(サンキュー、越野)
今回の立証に一役買ってくれた仲間に心の中で感謝すると、「そんなことよりもっとしっかりしろ!」...なんて、空耳が聞こえてくる気がした。
「...あの、レイコさん」
『なぁに』
「肩に乗るとかしないんですか?」
散歩だからなのか、律儀に隣を歩く彼女に、一応提案をしてみる。
『そんなことしたら肩凝るよ?一応私、霊体なんだから』
「憑かれると肩凝るってマジなんですね」
『荷物持ってんのと同じでしょ、多分』
「なるほど?...けど、だからって歩くの面倒じゃないんですか?」
『別に。てか歩いてないよ、浮いてるし』
「え、それ浮いてんの?」
『浮いてるよ?ほら、脚だって動いてないでしょ』
「あ、ホントだ......初対面の時は普通に歩いてたから、てっきり」
『ああ、あの時はその方がラクだったから......ところで今日はどこへ?またテキトーにぶらつくだけ?』
「嫌ですか?」
『んーん。気になっただけ』
「そうですねぇ...この先に公園あるんで、今回の目的地はそこにしますか」
『公園?』
「はい。バスケのゴールもあるんですよ、そこ」
『あ、じゃあゴール下立ってみてくれない?手伸ばした時どこまで届くのか見たい!』
「ははっ、なんですかそれ」
『だって試合中は動きっぱなしで分からないし。ダメ?』
「いーえ、お安い御用ですよ」
『やった!上から見よっと』
「そこは後ろからじゃないんですね。おっ、そろそろ見え.........ん?」
視界に映る目的地と、ひとつの人影。
公園なのだから先客が居たってなにもおかしなことはない。時間だって、まだ昼を過ぎたばかりだ。
もしかすると、レイコさんのことが見えてしまうタイプの人かも...なんて心配があるわけでもない。
いや、ゼロではないが、その時はその時だ。
じゃあ何故、今日に限って気に留めたのかと言えば、理由は至ってシンプルなもの。
「...流川?」
その先客が見知った顔だったから、だ。