仙道くんと流川くん
ひょんなことから始まった、生身の人間ではない相手との同居生活......これだと頭の心配をされてしまいそうだな。
しかし、事実は小説よりも奇なり。
『仙道君、仙道君』
「はいはい、なんですかレイコさん」
生活を共にするようになって数週間。今のところ彼女...レイコさんとは上手くやっている。少なくともオレはそう思ってるし、彼女からも特段クレームが入ったことはない。
『気づいたんだけど私ね、あなたを守る以外のことも出来るんだよ』
「...と言うと?」
『冷感グッズ』
「はい?」
『だから、冷感グッズ。これからの時期にピッタリじゃない?』
意気揚々と語る姿を見るに、やはり彼女もこの生活に不満はなさそうだ。
『微々たるものでも、少しはひんやりするでしょ?快適に過ごせると思うんだよね』
「あっはは、そうですね」
『まあその代わり冬はお役御免になっちゃうけど』
「大丈夫ですよ、雪国じゃないんだから」
『そう?でも万が一が怖いし...冬寝る時はちゃんと防寒してね。凍死したらシャレになんない』
「ははは、幽霊ジョークですか?それ」
『大真面目ですけど?』
「お気遣いどうも......あ、そうだ。聞こうと思ってたんですけど」
『なに?』
「こないだの生霊の女の子のこと」
『ああ、あれ?なんか思い当たる人でもいたの?』
「いえ、それは特に。ただ、あの時なんか言ってたじゃないですか。あれ地味にずっと気になって」
『あー...あれね。後悔しない?』
「あ、後悔する可能性はあるんですね」
『んー...私は別にそうでもないけど、仙道君は当事者なわけだしどうかなって』
「そうですねぇ...」
『世の中、知らない方が良いこともあるでしょ。どうする?』
たしかに。
自分の為であれ相手の為であれ、知らない方が良いこと...もっと言えば知る必要のないこともある。わざわざ首を突っ込んでいきたいと思うような性格でもない。
...少なくとも、あの夜までは。
「知らないより知った方が良いこともある、それも世の中の常じゃないですか?」
『...ふふ、言うと思った』
「バレてました?」
『なんとなくね』
「それで『ずっと』...えっ」
『ずっと見てたの見てるの見てるのに好きなのにこんなに好きなのにどうして気づいてくれないの.........これがあの時のセリフ』
「あ、ああ...なるほど...」
『そんなにビックリした?』
「そりゃ急にホラー感増したトーンでそんなこと言われたら驚きますよ、大体の人は」
『雰囲気寄せた方が良いかと思って』
「その気遣いはいらなかったかなぁ...」
人のことは言えないけれど、どうやら彼女もなかなかにマイペースな性格らしい。
だからこそ、変に重い空気にならずに済んでいるとも言えるが。
「一応スッキリしました」
『そう?なら良かった』
「ええ。ありがとうございます」
『どういたしまして。それにしても、モテる男って大変なんだねぇ』
「はは...」
『ま、安心してよ。今は私が憑いてるんだから』
自信に溢れた表情と声は、不思議と穏やかな気分にさせる。
証拠にほら、苦笑いが引っ込んだ。