オレと彼女とあいつとゲーム
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遅くまで部活のある自分と帰宅部の上田。
テスト期間などの特別な理由がなければ、本来帰り時間が重なることはない。
「昼休み楽しかったなぁ」
が、自分に合わせ自主的に居残りをしてくれる彼女のおかげで、週に何度かはこうして一緒に帰るようになった。
待たせてしまうのを申し訳なく思う反面、しっかりその厚意に甘えてしまっている。
「案外おもろかったな」
「せやろ?どうせやったら帰りながらもしたかってんけど...岸本おらんし」
「歩きながらは危ないやろ」
「それもそやなぁ」
乗り気でないながらも、いざやってみると思いの外盛り上がるのだから不思議なものだ。
相変わらず内容に統一性はないし、相手の思考を読み取る想像力が必須だったけれど。
ちなみに当の岸本は「お先」とだけ言って早々に帰っていった。ペンの件といい、なにかと気を回してくれるのは有り難い。
...それはそれとして。
「...上田と岸本は前世で漫才コンビでも組んどったんか?」
「前世のことは分からんなぁ...多分ないと思うけど」
「その割には息ぴったりやったけどな」
「...ヤキモチ?」
他の男の名前を出されることへの嫉妬と、それを相手に悟らせてしまう己の忍耐力のなさはどうしたものか。
「なぁ今のヤキモチ〜?」
「うっさい」
「素直やないなぁもう!」
「うっさい」
「んふふふ」
まあそれでも、彼女自身はご満悦な様子なのが救いかもしれない。
「...着いたで」
そうこうしているうちに、気づけばもう家の前。
歩幅の狭い彼女に合わせて歩く時、初めは共にいられる時間を長く感じられていたのに、慣れてしまうとそれもあっという間だ。
名残惜しくないと言えば嘘になるけれど、いつ誰に見られるかも分からない公道...ひいては他人様の家の前で思い切ったことをする性格ではない。他人様と言っても彼女だが、とりあえずそれは置いといて。
「また「南!」...!?」
いつものように挨拶だけ交わそうとした、まさにそのタイミングで被せるように名前を呼ばれた。
「後ろ向いて!」
「...は?」
「ええから早く!うーしーろー!」
押しの強さに負け、大人しく背を向ける。
今ここに岸本がいたら笑われていたに違いない。
「早よ中入らんと心配されんで」
「南がすぐ答えてくれたら大丈夫!」
「せやったら捻りなしにせぇよ」
「そこも心配無用や!書いたまんま読んでええよ」
彼女は自信満々でそう言い放つと、背中に指を這わせ文字を記し始めた。
文字数が少ないのか、一文字が比較的大きく書かれて......って、これは...。
「分かった?」
「...もっかい」
「えっ」
「早よ」
「う、うん............よし、今度こそ分かった?」
「もっかい」
「嘘やろ?!そない難易度高ないはずやのに...」
「ええから」
「もー............はい!三度目の正直!」
「......」
「待ってまさかまだ...?」
「んなわけあるか」
「せやったら答えは?」
本当に分からないわけじゃない。なんなら最初の出題途中で確信した。
ただ、ほんの少し悪戯心が芽生えてしまっただけ。
結果的に、素直な彼女が自分の言葉を信じて戸惑う愛らしい姿を拝め、喜ばしい言葉を背中を通じて伝えてもらえた。
さて、本当ならあと数回はこのやりとりをしたいところだが、そろそろ彼女を家に帰さねばなるまい。
でないといろんな意味でここへ来づらくなってしまうから。
催促に応じるように彼女に向き直る。
「あ、ついに?」
「ん」
「ほな、3、2、1、どうぞ!」
「...オレも」
答えを口にする直後、どうせなら...と意趣返しのつもりで内容を変えた。
数時間前と同じやり方、十分意味は通じる。
彼女は一瞬きょとんとした顔になり、その後すぐ意味を理解したらしい。輝くような笑顔を見せてくれたのがその証拠。
「捻り効かすな言うたん、南の方やのに」
「ええやろ別に」
「せやなぁ...嬉しいからなんでもええわ!」
「単純やな」
「素直の間違いやろ?」
「...せやな」
「ふふ...なぁなぁ南」
「なん...ぅお?!」
「大好き!」
背中越しに何度ももらった言葉と、熱い抱擁とは名ばかりの手加減なし全力タックル。
それでもきっちり受け止めるあたり、流石の瞬発力だと自賛しそうになる。
ああそれより、やらなければならないことを優先しなくては。
彼女に習って素直になるだけ。
「...オレも」
彼女の背中に手をまわし、どうか誰にも見られていませんように...とひっそり願いながら、今出来る精一杯の素直な表現で気持ちを伝えた。