似た者同士
人であれ物であれ、優先順位を明確にする行為はあまり良いものではないのだろう。
流石に絶対悪とまでは言わないけれど、序列をつけた結果が吉と出た試しは、少なくとも自分の人生ではなかった。
「もし、の話やけど.........うちと岸本が崖から落ちそうになったらどっち助けるん?」
では何故その人生経験を活かさない発言をしているのか。
答えは簡単、この質問は恋愛において大多数の若者が通る道だから。
......多分。
「なんやその状況」
彼氏であり、質問を投げかけられた張本人でもある南が冷静にツッコミを入れてくる。
表情こそ変わらないものの、雰囲気から「何言ってんだコイツ」と思っているのは伝わった。
本当、なに言ってんだかね。
「ちなみにどっちも極限状態やから片方しか助けられへん。まさに崖っぷちや」
「ほーん......ガキくさ」
「高校生はガキですぅ」
「精神年齢のこと言うてんのや、アホ」
「もー!ええから答えてよ」
恥ずかしいと言うか重いと言うか、あと数年経った時に思い出すと抹消したい記憶になるのだろうな...なんて、現実を見ている自分がいる。
それでも今更なかったことには出来ないと、開き直って返事を催促する図太さには我ながら感心した。
そうしている間に彼は答えが決まったらしく、手にしていた雑誌から視線を上げ、真っ直ぐこちらを見つめて口を開く。
「岸本」
「えっ」
「岸本」
「いや聞き返したわけちゃうし...」
もう一度言うが、今の「えっ」は驚嘆の意味で溢れただけで決して疑問系ではない。
「お前より身体能力ある岸本が自力で這い上がれんのやろ?怪我でもしとるんか思うやろ、普通」
「その優しさ、うちにも見せてくれてええと思うんやけど」
「は?そこにオレがおったら自力で登ってくるお前にか?」
「.........否定出来んのが悔しい」
「な?助けも優しさも必要あらへんやろ?」
「...いや、けどやっぱ、優しさはあってもえんちゃうかな?」
「けどまぁ」
「まさかのガン無視」
「ちゃうわ。お前が下まで落ちて這い上がれん場合の話や」
「縁起悪いなぁ...」
しかもそれ、スルーされたのとは関係ないような気がする。
先程の回答も含め不平を心の中で密かに唱えているのに対し、彼は相変わらずの涼しい顔で続けた。
「岸本助けてすぐ後追ったるわ」
そう言って、なんとも美しい笑みを浮かべながらこちらを見つめてくる。
うっかり見惚れてしまい思考が停止しかけたが、少しの間を置いて彼の言葉の意図に気づいた。
実に彼らしい、と冷静に考える頭とは対照的に大きく脈打つ胸の鼓動。おそらく今、自分の顔はだらしなくニヤけているだろう。
彼の方はそんなことはお構いなし、とでも言うように再び雑誌へ視線を戻してまっているけど。
「理解したんやったら人の話は最後までよお聞け」
「...はい.........あの、南...」
「なんや」
「今のって.........プロポーズ...だったり...とか......なーんて...」
「自分の好きに捉えたらええんちゃうか」
祝辞代わりの弔辞も乙かしれない...なんて能天気な感想を巡らせてしまう。
でもそれなら、こんな自分を好きな彼は、喜ぶと解っていて欲しい言葉を投げかける彼は、同類と呼ばれても仕方がない。
思っていたよりもずっと、私達は子どもでバカップルで惹かれ合っているようだ。