11月11日は、
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「なんの日か分かるか、奈緒子」
「ポッキーの日!」
「ちゃう、予防接種日や」
自信満々の答えは速攻で切り捨てられた。
「...ポッキーの日です」
「ちゃう言うとるやろ。聞こえへんかったんか」
それでもなお意見を曲げない私に、やはり彼は容赦なく現実を突きつける。本当に恋人か?ってくらいドライだ。
まあ、そこか彼らしいわけでもあるけど。
「違うもん、ポッキー&プリッツの日だもん...」
「往生際悪いで。そんで忘れとったプリッツ地味に追加しとんなや」
「...つ、烈の鬼!節分の日に豆ぶん投げるからね!」
「やれるもんやったらやってみ。金棒で全部打ち返したるわ」
「うぅ...なんで世間一般がポッキーだプリッツだって和気藹々としてるとこに私だけ注射なの?!」
「前から決まっとったことやろ、諦めや」
そう、この悲しい現実は何日も前から決まっていたこと。どれだけ嫌だなんだ嘆こうと、体調不良にでもならない限り逃れられはしないのだ。仮病を使うなんて方々に迷惑のかかることはしないけど、悪足掻きしたくなる。
いくつになっても注射は嫌いだ。
そんな私を哀れに思ったのか、再び烈が口を開く。
「ポッキーもプリッツも注射の針も同じ直線やろ」
訂正。多分面倒くさいだけだ、これ。
「全然違うよ!!!片や美味しくて笑顔になれるお菓子、片や痛みと涙を伴う凶器だよ!」
「身体にとっては砂糖のが毒や。ワクチンはそのまんま薬やしな」
「ど正論かまさないで!」
こんなやりとりをしている間にも、予定の時間は刻一刻と迫っている。
と言うか、現時点で病院に向かう車の中。彼の問いかけが何を示しているかなんて、最初から分かっていた。
でも、これはこれで烈なりの気遣いなのだろう。効果の有無は別にして、少しでも緊張を解してくれようとしてくれたのだ。
...と、信じたい。
「はぁ...」
「溜息吐いても中止にならんやろ」
「そんなの知ってるもん...」
「素数でも数えとったらええんちゃうか」
「打たれる現実の方が強すぎて無理」
「ほんなら羊でも数えとけ」
「絶対それトラウマになるから。これから先睡眠促進効果なくなっちゃうよ」
羊を数える度に注射が頭をチラついて離れなくなりそうだ。逆に不眠効果をもたらしてしまう未来しか見えない。
「注射の時だけ幽体離脱出来たらなぁ...」
「はよ覚悟決めや。そんでアホなこと言うてる間に着いたで」
そう言って空いているスペースに停車させたものの、何故かエンジンを切らない烈。
「買い物でも行くの?そこまで時間かからないと思うよ?」
「すぐ済む用事や」
「そっか......はぁ、とりあえずいってき「奈緒子」...うん?」
重すぎる腰を上げようとした直後にまさかの呼び止め。不思議に思いつつ顔を向けると、頬へ彼の手が触れる。
そして、それに驚く間もなく今度は唇が重ねられた。
「...な、なに......えっ?!」
軽く触れただけのキスに、分かりやすく動揺の言葉がこぼれる。
けれど、彼の方はいつも通り淡々とした様子だ。
「餞別や」
「せ、餞別って...」
「接種後は激しい運動禁止やからな。それで我慢しとけ」
言葉の意味を理解して顔が熱くなる。
これから体温測定もあるというのに...絶対わざとだ。
「...烈のせいで先延ばしになるかも」
「そんくらいでならへんわ......まあけど、もしなったら我慢はせんでええやろな」
「!烈のバカー!」
「関西人にバカ言うな、アホ」
「アホって言うな、アホー!」
「あーはいはい。ま、頑張りや。とりあえずポッキーは買うといたるわ」
「うー......全種類買ってよね!」
「太るで」
「うるさーい!」
なんて、照れ隠しの悪態をつきながら、やっぱり彼なりに気遣ってくれたのだと心があったかくなる。
注射は苦手。
でも、こんな時間を過ごせるのなら...と、こっそり心の中で考えを好転させた。