そんなの聞いてません!
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「いーやーやー!」
いい歳した大人が子どものように駄々をこねるのには、大抵訳がある。
たとえば、どうしても譲れない戦いがある時とか。
「ごちゃごちゃ言ってんとはよ来い」
聞く人によってはヤバい場面になりかねない発言をする人物は、これでも一応恋人。
「...烈は鬼や」
「せやな」
「...今日やないとあかんの?」
「あかん」
「...ならせめて午後とか」
「今日は午後休診日や」
「...なんか体調悪い気が」
「ほざいとんなや、すこぶる良好やろ」
「ちょっとは心配してくれてもええやん」
こんなやりとりをさっきから10分くらい続けているのだが、当然ここに至るまでの経緯は存在する。
コンビニに出かけた烈に、ついでに買ってきてほしいものを画像付きメッセージで送った。
『ごめん、もし買えたらこれも買うてきてくれへん?』
『インフル行くで』
『???』
『あと5分で着く、準備しとけ』
『待って意味わからん』
それから既読スルーをされて今に至る。
簡単な話、予防接種を突然言い渡された。
「そもそも会話のキャッチボールしてへんし!てかなんで今日なん?急すぎるやろ!」
「しゃあないやろ、オカンから急に連絡来たんやから。どっちにしても受けなあかんかったんや、はよしろ」
「注射とか聞いてへん!」
「書いたやろ、インフルて」
「前もって言うてくれんと心の準備が...!」
「言うたやろ、文面上」
「5分そこらで出来るか!注射嫌いなめんときや!」
どうせこの後大人しく着いていくハメになると分かっていても、犬のようにキャンキャン吠えて抵抗したくなる。
だって、注射嫌いなんだもん。
「ほな、別の日にお前一人で行くんやな?」
「...え」
「看護師さんには言うといたる。ほな、いってくるわ」
「ちょ、ちょい待ち!」
「なんや、手短にせぇよ。さっきから時間オーバーしとんのやから...奈緒子のせいで」
淡々とそう語る姿は、自分を誘い込む為のもの。
「...うちも行く」
そう理解していても、つられてしまうのは惚れた弱みだろう。
「40秒で支度せぇよ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる恋人を見るに、やはり計算内だったらしい。悔しく思いながらもその表情にすらときめいてしまった。
「...はぁ、嫌やなぁ」
これから打つ大嫌いなそれは、少しの痛みと引き換えに自分の身を守る為に活躍してくれるだろうけど、この病に効果はない。
これを治せる人なんてこの世の何処にもいない...目の前の人?無理無理、むしろ原因だから。
どれだけ胸が苦しくなったって、離れてなんかやんないよ。
だから、責任取ってずっと一緒にいてよね。