世界で一番キミが好き!
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
降り積もった雪を踏み締め、今日もいつもの通学路を突き進む。慣れた道とは言え、油断すると転びかねないから慎重に。
けど、それを忘れて走り出したくなる時がある。
「深津ー!」
そう、大好きな人を見つけた時だ。
「おーい!おはよー!」
大声で呼びかける私を、少し呆れた表情で振り返る彼は恋人であり、世界で一番好きな人。
まあ呆れたって言ってもポーカーフェイスだし、私から見ての話ではあるんだけど。
「深津、深津!おはよう!」
「走ると転けるピョン。あと聞こえてるピョン」
「えへへ...だって深津が見えたから、つい。それにほら、一応雪国育ちだし!」
我ながら単純脳だと自覚していたものの、さっきまで油断しないように...と冷静だった自分はどこへやら。
「今日の一限数学なんだよね...やだなぁ。あ、深津のクラスは一限目なに?」
「古文ピョン。あと前見て歩けピョン」
「え、隣に深津がいるのに...?」
「上田が転けたらこっちに二次被害くるピョン。嫌なら後ろを歩けピョン」
たしかに、深津が巻き込まれ事故を起こすのは嫌。本来の私なら、彼の言葉に素直に従って前を見ていただろう。
でも、予想外にあがった彼からの提案に強く惹かれた。
「...隣歩きたい、けど後ろから深津を見たいのも本音......迷う...!」
「そんなこと言ってるうちにもう着くピョン」
「えっ!早くない?!」
「早くないピョン。そもそも遭遇した場所は正門10m前、妥当ピョン」
「うぅ...で、でも教室までは一緒だもん...」
「同じ校内にいるのに大袈裟ピョン」
「だってぇ.........ぅわっ...!」
門を通り過ぎ、校舎入り口へ足を踏み入れようとしたその時、思い切り滑ってバランスを崩す。素っ頓狂な声をあげたこともだが、注意を促されていたことを本人の目の前でやらかしてしまったことが恥ずかしい。
けれど、羞恥以外の感覚...もっと言うと、身体への衝撃はなかった。
「言わんこっちゃない......ピョン」
「ふ、深津ぅ...!」
愛してやまない恋人がガッシリ支えてくれたから。
感動とトキメキで、思わずハートが舞ってそうな声が出てしまう。
「ありがとう!少女漫画みたい...!」
「アホなこと言ってないで反省しろピョン」
「はい!ごめんなさい!」
少々辛辣ではあるものの、それが自分の為に言っていることだと思うと一層嬉しい。いや、多分本気でアホなこと言ってるとは思ってそうだけど。
態勢を整え、再び教室までの僅かな距離を歩き始める。若干滑りやすくなっている廊下は、ゆっくり歩く口実になるから有難い。
「やっぱ深津は体幹しっかりしてるんだね、すごいね」
「否定はしないピョン。けど上田の注意力が散漫なのは事実ピョン」
「気をつけます!」
「それ毎年聞いてるピョン」
「成長しなくてごめんなさい!」
「それも毎年聞いてるピョン」
「深津......そんなことまで覚えててくれてるの...?嬉しい!」
「そのポジティブ思考は一度研究対象にしても良いと思うピョン」
「深津の為ならなんでも........って、ああ!もう着いちゃった...!」
物理的な距離が近いとは言え、やっぱり幸せな時間はすぐに終わってしまう。
「うぅ...クラス3つ分の距離は遠すぎる...!」
「だったら会いにくれば良いピョン」
「でも...さすがにずっと私といたら疲れない?」
「何故そこだけ急に冷静な思考になるピョン」
「...私といる時は私との時間だけど、そうじゃない時は深津の時間も大事にしてほしいもん。一緒にはいたいけど、邪魔もしたくない」
友人なり、部活仲間だったり、彼にも彼の付き合いはあるわけだし。
「あ、でも我慢出来なかったら会いに「別に良いピョン」...え?」
「上田のしたいように行動すれば良いピョン。普段の無遠慮さを無理に抑える必要はないピョン」
「...本当?」
「ピョン」
接尾語と呼ばれる、彼の使う独特なそれは、きっと肯定の意味だろう。
...じゃなきゃ頭に手をやるなんて、本当に少女漫画みたいなこと、するはずないもん。
「...深津、大好き」
「ピョン」
「大好き!愛してる!」
「ピョン」
「もう一生「はよ教室入れピョン」...痛いっ!」
辛辣な言葉と共に繰り出されたデコピンに、ああこれが飴と鞭か...と、彼の言うポジティブ思考を働かせる。
この瞬間も、世界で一番キミが好き!