仲介者
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「あ、深津さーん」
昼休みに訪れたのは、校内に設置されている自販機が並ぶ場所。
そこで偶然会った、今日自分の頭の中の大半を占拠する内の一人。
「なに買うんですか?」
「決めてないピョン」
自販機を見つめる形で佇んでいた深津さんは、肝心の品はまだ決めていないらしい。
「じゃあこれとかどうです?オレも飲んだけど美味かったですよ」
薦めたのはフルーツフレーバーの紅茶。レモン、オレンジ、ピーチの三種類があって、どれも仄かなフルーツの香りと優しい味わいが絶妙なのである。
「個人的にオレンジがイチオシで...って、そもそもこれ上田から聞いたんですけど」
「上田?」
「前に神経衰弱で負けちゃって...」
「勝ち目ゼロの勝負を受けた時点でお前の負けは確定してたはずピョン」
「そこは放っといてくださいよ!...で、その罰ゲームに買いに行かされたんすけど、なんかフルーツティーが好きらしくて。結構いろんなの飲んでるって言ってました。その中でも上位に入るらしいですよ」
「そうかピョン」
「(相変わらずなに考えてんのか分かんねぇ人だなぁ......あ、そうだ)...上田と言えば、今朝も深津さんのこと話してましたよ」
「だからどうしたピョン」
「うっ......いや、なんか...好きすぎて夢にまで見たとか......相当好かれてますね」
あまりにも素気なく返され、反抗の意を込めてに茶化すように言ってみたものの、やはり、表情は崩れなかった。
別に二人の関係を進展させたいとか、上田の存在を深津さんに刷り込ませたいとか、そういうんじゃない。もちろん、友人としては上手くいけば良いのに...とは思うけれど。
あと、刷り込みの方は自分がしなくとも既に十分すぎる程、本人がやってのけている。
(そこまで興味ねぇのかな...なんかちょっと、上田に同情するな)
一方通行な恋愛というものを目の当たりにしたような気がして、第三者である自分が心を痛める謎の現象が起きてしまった。
...なんて、しんみりした気持ちの自分など意に解さないかのように、ようやく買う物を決めたらしい深津さんが自販機のボタンを押す。
ガコン、と音を鳴らしながら出てきたそれを、取り出し口から拾い上げた。その手の中には自分が薦めたあの紅茶。
「あ...結局それにしたんですね」
「飲んだことなかったからピョン」
「気にいると思いますよ」
「沢北」
「え、は...はい?」
「ひとつ教えておくピョン」
「な、なにをですか」
「夢に人が出てくるのは自分が相手を想いすぎているから...の解釈は昔と逆ピョン」
「...はい?」
「現実問題、現在の解釈が理に適ってはいるピョン。でも昔の解釈の方が趣があるピョン」
「え、え...はい?」
「今回のはそっちの説を推すピョン」
そう言って困惑するオレを置いたまま、深津さんは去って行ってしまった。
(なんだったんだ...逆って......あれ、そういえばなんかそれ知ってるような...)
古典の授業の時だったか、聞いたことがある内容。
たしか、昔は夢に出てくる相手の方が自分を想っているから.........って。
「...めちゃくちゃ好きってこと、か?」
点と点が繋がった時、自分の心配は杞憂なものだったのだと理解した。
同時に、想い合ってるくせにくっつかない二人から惚気られただけの半日に思わず脱力する。
(...いや、早くくっつけよ)
片方は先輩であるけれど、心の中だしこれくらいの悪態は許してほしい。
とりあえず、あの子が好きだと言った紅茶を手土産に、ひっそりと成就を祝うことにした。