仲介者
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「おはよう、沢北」
晴れやかな笑顔と透き通るような声は、爽やかな朝を一層輝かしく彩る。
「はよ、上田」
少女の名前は上田奈緒子。
工業高校の数少ない女生徒であり、クラスメイトであり、友人。彼女は男子生徒が大半を占めるこの学校で、かなり人目を惹く存在だ。
しかしそれは、可愛いからとか、男女比率の問題でとか、そんな単純な理由だけではない。
「ねぇ沢北、素敵な夢を見たから聞いてほしいの」
嬉しそうに、でも恥じらうようにも見える表情でこちらを見つめる彼女は、たしかに可愛いと思う。
正直なところ、オレも出会った当初はうっかり恋に落ちそうになった程だ。まあ結局は未遂に終わり、今では良き友人として学校生活を共にしているけれど。
「どんな夢だったんだ?」
「あのね、ヒグマに襲われたの。しかも二頭」
「最初からクライマックスかよ」
「正直死ぬかと思ったよ」
「オレでもそう思う」
「それでね、隠れたりしながら必死で逃げてるうちに廃墟みたいなとこに追い込まれちゃって」
「怖いな...」
「すっごく怖かった...もう逃げ場がなくて、ああ私食べられちゃうんだって思ったの」
「そんな状況でも覚めねぇのか...」
「うん。覚めて、覚めて!って願ってるのに全然ダメだった」
よくそんな覚えていられるな、と思う。たしかに衝撃的な内容だと記憶には残りやすいのかもしれないが...。
けれど、どこが素敵なんだ?とはツッコまない。
何故かって?
それは、この先の展開が容易に予測出来るから。
「でも、もうダメだって思ったその時、奇跡が起きたの」
ほら、きた。
「...どんな?」
本当は聞かなくても、なんとなく分かる。
彼女がオレに聞いてほしいことの中で、一番多い内容はそれだから。
「あの人が、出てきてくれたの......深津先輩が...!」
両手で顔を包み込むように悶える上田を見て、やっぱりな...と心の中で小さく笑う。
彼女の想い人である深津さんは、オレの所属する部の主将。冷静沈着、判断力・統率力に優れていて、最強と謳われる我が山王バスケ部を束ねる、尊敬する先輩の一人だ。
そしてこれが、彼女を有名にさせた理由でもある。
ただし、単に好きなだけではそうはならない。
感情にストレートに生きる彼女は、自身の恋心にもまた素直である。校内で想い人に出会す度、息をするかの如く「好きです」と言い続けた。周囲に人がいようがいまいが、そんなことは関係ない。
一方でTPOは弁えているらしく、状況に応じて挨拶だけ、と言うこともあった。まあ、そんなに意味もない気はするけれど...。
そんなこんなで『上田は深津一成にゾッコンである』というのが周知の事実になり、彼女の名が校内へ知れ渡ることとなったのだ。