どのパターンもアリよりのアリ


「別におかしなことじゃないだろ」
「おかしなことじゃなくても改めてだとなんか照れるでしょ!」
「そこは恥じらいを覚えるとこなのか」
「少なくとも私個人はね」
「それなら諦めるか?」
「...でも知りたいのー!」
「強欲ピョン」
「知ってますぅ!てか、深津の口から直接一人称が.........ん?」

気のせいじゃない。今、絶対私と協力者(仮)以外の人がいた。
会話の内容に最も関係が深くて、この場にいられるとちょっと困る、独特な言葉を使う彼が。

「な、なんでここに...!」
「通ってる学校にいるのは普通ピョン。それとお前ら二人、声でかいピョン」
「ご、ごめん」
「あー、悪い......けど、聞こえてたんなら話は早いな。深津、お前の一人称ってなんなんだ?」
「ま、松本...!」

よくぞ言った!と褒め称える自分と、まだ心の準備が出来てないのに、と理不尽な文句をつけたくなる自分とが殴り合いを始める。

「...ボク」

結果は、決着がつく前に彼に惚れ込んでいる自分が全て持っていってしまった。

え、なに、ボクって.........かわいすぎない?

「そ......れは、本当、なの?」
「嘘ピョン」
「えっ」
「あまり揶揄ってやるなよ、深津」
「別に揶揄うつもりはないピョン。反応見ただけピョン」
「一緒だろ......で?本当はなんなんだ?」

未だ冗談の余韻が冷めないままのポンコツに成り果てた私に代わり、協力者(仮)が再度同じ質問を投げかける。
どうでも良いけど、もうここまできたら(仮)はいらない気がしてきた。彼は立派な協力者だ、うん。

質問された当人は相変わらずのポーカーフェイスで、考えを全く悟らせてくれそうにない......そう思った時、厚ぼったい唇が小さく動いた。

「秘密ピョン」

問いかけた本人ではなく、もはや人型の置物と化している私を捉えていた視線は、返した踵と共に外される。

「...良いのか?あれで」
「うん」

自分が単純すぎるのか、彼が人を扱う能力に長けているのかは分からないけど、あれだけ知りたくてたまらなかったはずの内容なのに、これも知らない方が良いことのひとつなのかも、なんて思えてきてしまった。
”オレ”でも、”ボク”でも、”某”でも。どれも違った良さがある。今すぐ知れなくても、楽しみが延びたと思えば良い。

だから、今はまだ彼の言う通り秘密のままで。
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