どのパターンもアリよりのアリ
知らない方が良いことも世の中にはたくさんある。
だけど、私の頭の中に居座り続けるこの疑問は、解決しなければならないこと。
「松本、ちょっといい?」
そして、その糸口には協力者が必須なのである。
「どうした?」
「聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「うん、あのさ.........深津の一人称ってなに?」
「...は?」
怪訝そうな表情を隠しもしない、なんとも素直な協力者(仮)。
正直、気持ちは分からなくもない。私だって、深刻そうにこんな質問を投げられたら同じ顔になったと思う。
でも、好きな人のことだから、ね?
「...なんだ今更」
「だって!私聞いたことないもん!松本はあるわけ?」
「そりゃある.........と思う」
「松本も自信ないんじゃん!」
「言われてみるとどうだったか...」
「ね、ね!」
眉間に皺を寄せるところを見るに、やはり自分だけが感じていた疑問ではないらしい。まあ、わざわざ記憶を掘り返してくれる律儀さを持つ彼だから、と言うのもあるだろう。
とにかく、この謎を解き明かさなければ。
授業中の発言や、壮行会での挨拶の形式的なものなら何度か耳にはしたけれど、私的な場ではまだ聞いたことがない。
「普通に考えたら”オレ”だと思うんだけど」
「まあ、そりゃ...」
「でもさ」
「...ああ」
「「深津だしなぁ...」」
どれだけ好きでも、所詮はただのクラスメイトの自分が分からないのは致し方ないだろう。
しかし、三年間同じ部活で切磋琢磨してきた彼も同じ反応と言うことは、余程口にした回数が少ないか、もしくは本当にゼロなのかもしれない。
「寮で話す時とかは?」
「どうだったか......一人称必須の会話なんてそうないしな」
「え、でも例えばさ、この甘栗誰の?とか聞かれたら『オレの』とか言わない?」
「例えが分かりやすいようで共感しづらいな......そもそも深津の場合、その時使ってる接尾語?...だけで答えること多いからな」
「あー、たしかに...」
「むしろそっちのがインパクト強くて一人称気にしたことなかったな、今思えば」
「うーん......プライベートで一人称使わないのかな、深津」
「深津が使ってそうな候補、他にないのか?」
「えー.........”某”とか」
一体件の人物をいつ時代の人間にしたいのか、と思われても仕方がないが、これでも真剣に考えた答えだ。
それに、こんな風に思ってしまうのは自分じゃない。その証拠に、訊ねてきた本人は即答せずに苦笑いを浮かべている。
「...もう本人に訊いてみろよ」
肯定も否定も出来ず、困った末に彼が出した答えは、シンプル且つ確実に正解を知れるものだった。
...が。
「...それが出来たらここでウダウダしてませんよーだ」
こっちにも乙女心ってもんがあるのです。